阪神戦を試合終了まで中継することで知られる兵庫県の独立局、サンテレビの谷口英明シニアアナウンサー(64)が今シーズンで実況を“卒業”した。1979年の入社から40年。「いろんな人に支えられてやってきた」という半生を振り返ってもらった。
報道アナを経て88年にスポーツアナとなり、95年のオリックス初優勝、98年の阪神・川尻ノーヒットノーランなど、球史に残る試合を実況した。実況試合は両リーグ総計408試合、阪神戦は335試合。阪神の勝敗は170勝157敗8分けと、勝利数が上回る。
中でも「一番の試合」は、実況を担当した岡田阪神優勝の05年9月29日の巨人戦(甲子園)だ。「野球の神様がいると思った」という試合は、巨人・阿部の左飛を金本が捕球しゲームセット。谷口アナは「ウイニングボールを金本が捕りました。岡田阪神、大願成就!!」という言葉で締めた。しかし「パーフェクトなら『ウイニングボールを捕ったのは金本。岡田阪神、大願成就』。ミスだったかな」と今も反省が残るほど思い入れは深い。
「実況をやりだしてからは、タイガース優勝の中継をやりたいと思い続けた。(阪神が下位に沈んだ)90年代はもう、ないんじゃないかなと思いました。05年の優勝で、もういつ辞めてもいいわと本当に思いました」
落ち着いた語り口で数々の名勝負を伝えてきた名物アナだが、意外にも「向いていないとずっと思っていた」と明かす。「スポーツ実況を始めて1、2年は無我夢中でしたが、3年目くらいから怖さが出てきて、とんでもない番組をやってるなと。雨天中止になればいいのにと思うこともしょっちゅう。逃げ出したい時もあり、常に重圧を感じていました」というほど悩み、試行錯誤しながらの毎日だったという。
来年4月からは神戸常盤大の特任教授として、コミュニケーション学の授業を担当する。今後は野球中継に関わるつもりはなく「一阪神ファンとして応援しています。早く日本一を見たい」と40年ぶりに純粋な虎党に戻り、全力応援する。
(デイリースポーツ・中野 裕美子)