日本文化を代表する着物。あこがれだけど、いざ着るとなると着付けにトイレにと、そのハードルの高さは相当です。でも、初心者でもたった5分で着られ、美しい姿を保てる魔法のような着物があるというのです。しかも着物を縫う職人は、ハンドメイド好きの主婦や子育て中のママ。着物を着たい女性を救い、働きたいママを救い、さらには少子化などで先細る業界をも救うかもしれない―。そんな挑戦を取材しました。
風情ある有名旅館や町屋を改装したおしゃれな店が立ち並ぶ京都・麩屋町通に、その「dricco(ドリッコ)きもの」のお店はあります。
京町屋らしい細くて急な階段を上ると、作業スペースがあり、この日はお針子のママたちが自宅で縫ってきた着物を検品し、新しい布を渡す作業をしていました。反物をするするっと出すと、型紙を当てハサミで裁断(!!)。驚きの光景ですが、この洋裁と和裁の融合こそが、ドリッコきものの特徴です。いくつものパーツをミシンで縫い合わせ、襟などはかぶせ縫いでふっくらと仕上げます。洋服用の生地も使うそうです。
着付けも目からウロコ。長襦袢はなく、スナップボタンで白襟を付け、上衣を羽織って紐を結び、下は巻きスカートのように巻くだけ。なのに胸元は美しく、足元も褄先が上がり、ちゃんと裾すぼまりになるのです。最後に「おはしょりベルト」を着け、帯を巻いて完成。ひもや伊達締めなどの和装小物は一切必要ありません。締め付けもなく、さながらシャツとタイトスカートの気分です。
発案者は、NPO法人「京小町踊り子隊」代表理事の岩崎裕美さん。岩崎さんは元アナウンサーで着物が大好きでしたが、バブル崩壊以降、若い世代を中心に着物離れが急速に進むのを目にし、危機感を強めたといいます。「一番のネックは着付けの煩雑さ。でもこれまでは、作り手も売り手も男性中心で、『伝統』『本物』を追究するあまり着物はどんどん高級品になり、特別な日にしか着られないものになってしまった」と岩崎さん。「先入観にとらわれず、もっと女性の声を反映させた『普段着られる着物』を作りたかった」と話します。