広島のジム所属選手では史上2人となる日本王者となった元プロボクサーの中広大悟さん(37)。引退から5年、現在は医療法人「せのかわ」が経営する「よこがわ駅前クリニック」(広島市)に勤務し、体と心のリハビリテーションを行う「作業療法士」として訪問看護を行っている。
「僕が担当するのは主に精神疾患の患者さんです。日常生活を送る上で困っていることや改善点など見つけて、よりよい生活を送れるようにアドバイスしたり、リハビリのお手伝いをさせてもらっています」
精神疾患にも多くの症状があり、患者の年齢層も若者からお年寄りまで幅広い。1日に訪問する自宅は平均6件。「基本は対話型の治療となります。患者さんやご家族から『ありがとう』『助かったよ』と言ってもらえた時に一番やりがいを感じますね」。これまで多くの患者の社会復帰も支援してきた。
中広さんがボクシングを始めたのは広経大入学後。大学2年の時にプロデビューし、08年には日本スーパーフライ級王座を獲得、3度の防衛にも成功した。所属は広島三栄ジム。東京や大阪など都会のジムと違って地方ジムは練習環境やマッチメークなどでハンディが多いが、そんなマイナス面も乗り越えて結果を残し続けた。
プロボクサーを続けながら大学院に進み、卒業後はボクシング活動に対して理解のある「瀬野川病院」に職員として就職。「多くの患者さんがいつも『頑張れ!』と声をかけてくれて、試合会場にも足を運んでくれました。本当なら僕が元気を与えないといけない立場なのに…。次は僕が患者さんの力になる番だと思ったんです」。国家資格である作業療法士になることを決意し、現役を続けながら専門学校に通学。14年に現役引退し、その1年後に資格を得た。
「ボクシングでは日本チャンピオンにもなれましたが、たくさんの失敗もしました。普通の人にはできないような経験をしてきたと思うので、そういう経験を生かして、僕にしかできない訪問看護をやっていきたいと思っているんです」