転機が訪れたのは、2018年8月。経営難で知られる銚子電気鉄道が発売したスナック菓子「まずい棒」のキャラクター・まずえもん(魔図衛門)を書き下ろしたところ、日野の漫画でトラウマを味わった昭和世代からは驚きの声が上がり、日野を知らない若い世代からは「ブサ可愛い!」とSNSを中心に話題になった。それも後押しする形で、イラストを担当した念願の絵本『ようかい でるでるばあ!!』(文:寺井広樹)出版の流れとなった。
「本来やりたかったことですから、15年のブランクは全くありませんでした」。メリハリをつけるためにページごとに色合いを変えたり、ページを覆う煙にだまし絵のような仕掛けを施したり、子供の目線に立って視覚的に楽しめるように工夫。ストーリーも寺井広樹氏と共に練り上げた。日本古来の有名な妖怪や日野オリジナルの妖怪も登場するが、ちょっぴり怖いが愛らしいというサジ加減が絶妙だ。
「怪奇漫画家時代に苦心したのは、可愛く描かないということ。無意識で絵を描くとどうしても可愛いキャラクターになってしまうので、当時はその修正が一番大変でした。今回はその枷もありませんから、絵を描くってこんなに楽しいの!?と初めて思ったくらい。幼少期に杉浦茂先生の漫画を読んで感じた、ひなたぼっこをしているような気持ちになりました」。
デジタルでは表現できない温もりも意識。「下書きとペン入れは手書き。基本の色はパソコンで着色しましたが、パソコンだけでフィニッシュすると温もりが感じられないので、水彩色鉛筆で木目や影などを手書きで足しました。手間はかかりますが、その分、味が出る」と細部にまでこだわった。イラストの制作期間は約2か月。幼稚園生から小学校低学年を購買ターゲットにしているが、オールドファンに向けての嬉しい遊び心も取り入れている。
日野は「漫画家生活の中で積み重ねてきた“怪奇”と、自分の中に本来ある“可愛らしさ”や“ユーモア”が上手く融合できたと思います。怪奇という山を一旦下りて、小動物たちがいるような一番自分の居心地のいい麓に戻ったような感覚。担当編集者や印刷担当者が完成度の高さに驚いてくれたのも嬉しかった」と手応え十分。今後も絵本として表現したいアイデアは8個ほどあるという。昭和世代の子供たちを恐怖させてきた73歳の大型新人絵本作家は、新時代・令和の子供たちに笑顔を届けるつもりだ。