悪夢の部屋から解放されると、さすがにもう大丈夫だ。透明なアクリル樹脂で固められたゴキブリの標本が、ちょっとオシャレなオブジェみたいに壁に埋め込まれているのを見ても、「とても素敵ですブリねえ」と笑みを浮かべる余裕も出てきた。とはいえ「プシュー、プシュー」と鳴き声のような音を出すマダガスカルオオゴキブリ(体長6~8cm)には、いくら勧められても触ることができなかった。怖いとか怖くないとか、そういうことではない。もっと根源的な「何か」が、私がゴキブリに触ることを許そうとしないのである。「慣れですよ。私たちだって、別にゴキブリのことは今も好きではありません」と亀井さんは言う。GKBRが苦手な僕たちのために、毎日本当にありがとうございます。
亀井さんたちは、同じ研究所の開発・実験担当からの依頼に備えて、性別や成長段階の異なる大量の害虫をこのように飼育して、常時スタンバイしている。そんな中でも、やはりゴキブリは別格らしい。ある社員がこう言っていた。「ゴキブリは我が社のスターですからね」
この日は他にも、蚊が大量に飛ぶ箱に同社の虫よけ剤サラテクトを吹き付けた腕を差し入れてみたり、ごきぶりホイホイの内部に設置した360度カメラの映像でゴキブリが動けなくなる様子を観察したり、床に放ったゴキブリにゴキジェットプロを噴射して効果を確かめてみたりと、商品の性能をPRする実験もいくつか。個人的には、「秒速ノックダウン」を謳うゴキジェットプロの威力には本気で驚いてしまった。これをさっきの50万匹部屋に持ち込んで使えば…。そういうことを考えてはいけないと思う。
坂越工場でごきぶりホイホイや消臭芳香剤「スッキーリ!」の製造工程などを見学した後は、そこから車で15分ほどの距離にある赤穂工場へ。ここでは入浴剤「温泡」や洗口液のモンダミンなどを生産している。
1987年に販売が始まったモンダミンは今、サイズ違いを含めるとなんと54種もあるらしい。見学コースの最後には、日本酒の利き酒のようなスタイルで各種モンダミンの“味比べ”ができるコーナーもある。私はもちろん全種類試したが、3種類目くらいから口の中がすっきりしすぎて結局よくわからない状態になってしまった。
ゴキブリに始まり、過度な清涼感で終わる。アース製薬で過ごしたこの日のことを、私は生涯忘れないだろう。アース製薬の見学ツアーは、他企業などとのコラボ企画で参加者を募ることもあるとか。気になる人はチェックしてみるゴキ。