印鑑行列、紙で過剰な資料、根回し至上主義…不思議な「社内ご丁寧文化」はなぜ?

広畑 千春 広畑 千春

 会議の資料作りも大仕事です。「人数分をコピーして、サイズはA4で、大きい資料は折って合わせる。フォントも指定。ペーパーレスの時代、タブレットで共有したら時間も経費も手間も省けるのに、後で突っ込まれるのが嫌だから自らやってしまう」(メーカー勤務50代男性)。マスコミ関係の50代男性は「チームの会議に、部の会議に、プロジェクトの会議に、役員が出席する会議…。その間、全く手持ちの仕事は進まない」とため息をつきます。

お役所名物、決裁の長~い列

 役所や金融関係で働いたことのある人ならご存じかもしれません。係長、課長、次長、部長…と延々と続く決裁の印鑑。これをもらわないと、仕事は前に進みません。ですが、地方公務員の30代男性は「決裁のために、ずっと順番待ち。前の人が終わったときに電話などで伝えてくれたら別の仕事ができるのに、このやり方でずっとやってきているし、上司に『変えてください』とは言いづらい。無理ですよ」とあきらめ顔です。

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 こんな文化を「社内ご丁寧文化」と名付け、脱却を目指すセミナーが大阪で開かれました。主催したのは関西の企業の有志でつくる「ダイバーシティ西日本勉強会」。当日は企業の人事担当者ら約30人が集まり、社内の不思議な文化を挙げると、出るわ出るわ。会場は共感の嵐に包まれました。さらに「メールでは『お疲れ様です』ではなく『おはようございます』『こんにちは』を使う」「会議で発言しない人は参加権を失う仕組みにする」「紙でなくタブレットなどで情報共有」など、改革意見が出されました。

 家具メーカー「オカムラ」(横浜市)でIoT(モノのインターネット)を通じたビジネスモデル革新を企画・推進するDX推進室長の遅野井宏さんは「メールの文面など、紙の時代の作法の残りだと思うが、丁寧にし過ぎて本当の意味での『言葉』が薄くなってしまっているのでは」と指摘。同社では社内連絡にインスタントメッセージを使っているが「所属や立場、世代が違うメンバーの距離も縮まり、仕事もしやすくなった」と言い、「業務改善でもTY(とりあえずやってみる)の思想が大切。トップの役割は大きい」と話します。

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 大阪大学キャリアセンターの家島明彦副センター長の話:本来、ビジネス上の礼儀や定型は仕事を円滑に進めるために生まれたはずだが、多様化が進み、逆に円滑なコミュニケーションの阻害要因として語られ始めている。理想は相手に応じた個別対応だが、礼儀や定型をすべて無くすというのは非効率的。まずは定型をマスターし、それぞれの相手との関係に応じて望ましい形でアレンジしていく先に、新たなビジネスコミュニケーションの形が生まれるのかもしれない。

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