不思議なビル…東京・三田で建築中の「蟻鱒鳶ル」に込められた1・17神戸の記憶

北村 泰介 北村 泰介
マンションの狭間で異彩を放つ「蟻鱒鳶ル」=東京・三田
マンションの狭間で異彩を放つ「蟻鱒鳶ル」=東京・三田

 岡さんが昨年出版した初の著書「バベる!自力でビルを建てる男」(筑摩書房)には、長田で目撃した衝撃もつづられている。

 95年1月下旬、岡さんは神戸市長田区を目指した。芦屋駅から長田まで歩く道中、そして同区内の避難所を訪ねる中、外観は高級そうな鉄筋コンクリートのビルが倒壊している現実を見た。コンクリートの強度が低いこと、つまり施工での手抜きを感じたという。

 その思いから、水分を大幅に減らすことでコンクリートの強度を図った。「セメントの質量に対する水の質量の割合は60%前後が主流だが、『蟻鱒鳶ル』では37%程度。水が少ない分、固まる前のコンクリートの粘り気は強くなる。練るのも型枠に打ち込むのも一苦労だが、稠(ちょう)密で硬くなる。寿命も伸びる」(岡さん)。専門家はその数値に驚き、「100年や200年は余裕で持つレベル」と指摘した。

 「23世紀への贈り物」となりうる建築をじっくりと時間をかけて練り上げていく。その発想の源流の一つには95年における長田での体験があったといえるかもしれない。「1・17」の記憶はその後を生きる人たちによって全国に拡散している。

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