着席した後、いよいよ朗読練習開始。現在は来年に控えた発表会に向け、各自が選んだ課題書を練習中。5人の選んだ本を挙げてみると…
・小泉八雲の「雪女」
・夢野久作「雨ふり坊主」
・西加奈子のエッセー「ごはんぐるり」
・野地秩嘉のルポルタージュ「ヨーロッパ食堂旅行」
・印刷インキメーカー・DICのCMで女優の吉岡里帆が朗読する詩「いろどりの詩(うた)」と乙一の異色の児童書「ボクのかしこいパンツくん」
と、ジャンルも内容もバラエティー豊か。朗読の持ち時間は1人5分強で、生徒が自分なりの解釈で朗読した後、講師の若谷さんが改善点を細かく指導していく。
例えば、「お雪の“決して言わない”というセリフも懇願ではなく“言うな”という言外の命令を込めてみては」と若谷さん。お手本の読み方をしてみせ、生徒はそこに込められた繊細なニュアンスを聞き取り自身の朗読に反映させる。再読を繰りかえすことで、キャラクターの輪郭が明確になり、迫力が格段に増していく。その様子を他の生徒は、全身を耳にして真剣に聞き入る。ぴん、と張り詰めた空気の中、皆の心が一つにまとまり、語り手が文字の世界に込めたいと願う想いに寄り合わさっていく。朗読には他者への理解と共感力を高める力があるのかもしれない。前述のドラマでもそれぞれの「生きづらさ」を抱えた登場人物たちが、朗読を通して「人生のレッスン」を重ね、自分や他者と向き合い、心を通わせていく様子が描かれていた。
朗読を教えはじめて10年になる若谷さんは「朗読は幾つからでも始められます。若い時は瑞々しい感性を、年齢を重ねてからは豊かな人生経験から得たものを声にのせることで、人の心に響く朗読になると思うのです」とレッスン後、語った。