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「奈良の風景が流れる音楽」地元出身のミュージシャン・平井景が故郷をテーマにした新作リリース 10月31日、春日大社で奉納コンサートも

中将 タカノリ 中将 タカノリ

近年、「平井景スペシャル」などでの演奏活動の傍ら、数々のCM音楽、テレビ音楽を手がけるドラマーで作曲家の平井景さん。

そんな平井さんが2026年10月31日、奈良をテーマにしたニューアルバム『たゆたふ -Tayutau-』をリリースし、同日、奈良・春日大社で記念の奉納コンサートを開催するという。

平井さんは1968年生まれ、奈良県出身。はたして今回のリリース、コンサートにどんな思いを抱いているのだろうか。お話を聞いた。

――僕も奈良出身。同郷の先輩が奈良をテーマに作品を作られるということで、非常に興味を持ちました。

平井:私も同郷とのことで、とても親しみを感じています。

奈良で育った私にとって、神社やお寺、五重塔や古墳のある風景は、ごく当たり前の日常でした。神さま、仏さまがたくさんいる土地で、子どものころから、その歴史の重みを無意識に感じていたのかもしれません。

奈良は夕方になると、ズンと空気が沈みますよね。何かが降りてきたように。土の匂い、木々の音、風がスッと変わる感じ。そんな気配を、ごく自然に感じて育ちました。

――高校を卒業後、大学から東京で過ごされているんですね。ドラマーとしてだけでなく、それ以外の分野でもご活躍されているイメージです。

平井:奈良を離れてからは、東京を拠点に35年近く音楽を続けています。プロドラマーとして活動を始め、作曲は独学です。リーダーライブや主催コンサートは、500回を超えます。ドラマーがリーダーを務め、演奏する曲をすべて自分で書く。日本では少し珍しいスタイルかもしれません。

作曲を続けるうちに、ふと気づきました。「自分の書く音楽には、いつも奈良の風景が流れている」と。奈良を題材にしようと意識していたわけではありません。振り返ってみると、あの土の匂いも、空気が沈む夕方も、知らないうちに音になっていたのです。

――2022年11月に、春日大社の摂社である若宮神社の式年造替の際に、春日大社で演奏されたんですね。

平井:若手だった20代のころから、奈良での凱旋ライブはたびたび行ってきました。2005年以降はコンサートホールで毎年、主催コンサートを開くのが恒例になり、故郷での演奏はその時々の集大成と言える節目でした。

奥吉野の天河大辨財天社(天河神社)とのご縁も古く、由緒あるその能舞台で奉納コンサートも開催しました。さらに、奈良県の主催で、県内の神社仏閣で演奏する機会にも恵まれてきました。

春日大社での演奏も、そうしたご縁から生まれました。2022年春に奈良県の依頼で春日大社で演奏した際、同年秋の若宮式年造替を記念するコンサートのお話をいただいたのです。

会場は、本殿前の林檎の庭。神事でしか立ち入れない屋外の神域で、本殿に向かって演奏するんです。古くからさまざまな芸能が奉納されてきたその場所に、ドラムが置かれたのは創建1250年以上の歴史で初めてのことだと宮司さんからうかがい、身が引き締まりました。

このとき作って奉納した曲が『春の日の』です。神さまや自然を前にして演奏すると、自分が解き放たれる一方で、無の感覚にもなります。「ここで演奏して恥ずかしくないか」「この演奏、この曲にごまかしはないか」と丸裸にされるような感覚でした。

そしてそのとき、僕の中で何かのスイッチが入りました。奈良で育った音楽家として、自分の音楽と故郷との関係を改めて意識するようになったんです。

――アルバム『たゆたふ -Tayutau-』を制作した経緯は?

平井:2025年秋、4度目の春日大社での奉納演奏を終えた後、神職の方からこんな言葉をいただきました。「奈良から発想した作品を持って、また春日大社へ戻って来はったら素敵ですねぇ」。この言葉が、ずっと心に残っていました。

今こそ、奈良をテーマにした作品を作るタイミングなのではないか。そう思う瞬間が訪れ、今年1年は、この作品作りに没頭してきました。

ジャズやフュージョンをベースに、映画音楽のように風景が浮かぶ要素もある。雅楽でもなく、和楽器中心でもなく、西洋の楽器編成なのに、なぜか「和」を感じる。いかにも日本的な音ではなく「なんか奈良っぽい」。それが自分らしい音楽だと思っています。

東京で作って終わりにせず、作品を持って奈良に帰り、春日大社で演奏する。そこまでを含めて、今回の作品作りなんです。

――アルバムが完成した感慨を。

平井:先日(2026年10月14日)、完成した作品を持って春日大社に参拝し、閉門後の無観客、宮司さんが見守る中、林檎の庭でソロドラムを奉納演奏しました。

神職の方の言葉どおり、音楽が生まれた場所へ、作品を持って帰ってくることができた。ようやくここまできた、という思いです。

――イチオシの曲は?

平井:まずは『春の日の』。2022年、春日大社への奉納曲です。レコーディングしたこの曲を、いの一番に神職の方にお聞かせしたところ、「春日をテーマにして作曲された曲は穏やかなものが多いですが、この曲は『1300年間紡がれた歴史は、その間の一人ひとりの激動の毎日の積み重ねなんだよ』とおっしゃっているようです」という感想をいただきました。

まさに私の想いを受け取っていただけたと感じました。春日の森のしなやかさと揺るぎなさ。長い歴史を生き抜いてきた強さを、激しいリズムで表しています。「穏やかで癒される奈良」だけではない、奈良で育った自分の素直な表現です。

次に『稀人 -Marebito-』。飛鳥、奈良時代の仏像や社寺を見ていると、中東や大陸から文化が流れ込み、いろいろな物や人が混じり合っていた時代が浮かんできます。エスニックでスパイシーな奈良を表現しました。

最後に『たゆたふ -Tayutau-』。2025年秋、春日大社への奉納演奏で初演したタイトル曲です。「たゆたふ」とは、ゆらゆらと揺れて定まらないこと。少し否定的にも取れる言葉ですが、2025年春に春日大社で見事な山藤を見てから、いい意味で捉えるようになりました。風が吹くたびに、大きな藤の房が揺れる。ひと言でいえば、しなやかでした。しっかり根を張っているからこそ、自由に、しなやかに、たゆたっていられる。「流れに身を任せながら、自分の芯は失わない」。人も音楽も、そうありたいと思っています。

――10月31日の春日大社でのコンサートへの意気込みをお聞かせください。

平井:10月31日は、レコーディングに参加してくれたメンバーと、春日大社の境内にある建物「感謝共生の館」で、作品完成記念のコンサートを開催します。

同じ曲でも、レコーディングとライブでは表情が変わります。会場の響きや、メンバーとお客さんとの反応で、音楽は変化していく。この日もどんな演奏になるのか、私自身も楽しみです。奈良で育ち、東京で長年音楽を続けてきた自分が、故郷を正面からテーマにした作品を作り、それを持って帰ってくる。単なるリリース記念コンサートではなく、これまでの音楽活動の先にある、大切な節目です。奈良にゆかりのある方にも、そうでない方にも、それぞれの中にある風景を感じてもらえたら、うれしいです。

   ◇   ◇

近年、日本の心のふるさととしてあらためて注目を浴びる奈良。その精神を表現しようという平井さんの作品や演奏を、ぜひ多くの方に体感していただきたい。

ドラマー・作曲家
平井景(ひらいけい/Kay Hirai)さん関連情報
▽ウェブサイト
https://www.kayhirai.com/
平井景スペシャル『たゆたふ -Tayutau-』リリース記念 奉納コンサート in 春日大社
日時:2026年10月31日(土)開場13:00/開演14:00(16:30ごろ終演予定)
会場:春日大社 感謝共生の館(奈良市)
出演:平井景(Drums & Composition)、山崎千裕(Trumpet)、寺地美穂(Sax)、宮野寛子(Keyboard)、田中晋吾(Bass)
チケット:全席指定 7,500円(税込)
▽詳細・お申し込み
https://www.kayhirai.com/schedule.html
※アルバム『たゆたふ -Tayutau-』は、木製のアクセスカード「τ(タウ)」にスマートフォンをかざして楽しむ作品。当日、会場でも販売される。

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