「やっぱり大人3匹は手離したくない。また一緒に暮らしたい」
今年7月に発生した熊本地震で自宅に住めなくなり、自身も骨折して入院。猫5匹と離れて暮らす飼い主から、動物病院に電話がありました。猫たちを保護活動者が受け入れ、新しい家族を探そうと動き始めた矢先のことでした。
一時は「安楽死させてくれ」と口にするほど、行き詰まっていたという飼い主。その背景には、入院中で住まいや仕事を探せず、猫を迎えにも行けない事情がありました。
受け入れに動いた、熊本市東区を拠点に保護猫活動をする「愛と愉快な保護猫たち」さん(@cat.start.ai)に、投稿後の経過と猫たちの今を聞きました。
動物病院に張られていた里親募集のポスター
きっかけは、かかりつけの動物病院で見かけた里親募集のポスターでした。
保護猫たちの通院などで、週に2回ほど病院を訪れるという「愛と愉快な保護猫たち」さん。獣医師に事情を尋ねると、猫たちの飼い主は7月28日の熊本地震で被災し、自宅が住めない状態になったうえ、骨折して入院したと聞きました。
猫たちはいったん、飼い主の父親が一人で暮らす実家に預けられました。しかし、父親には猫の飼育に関する知識がなく、世話を続けるのは難しかったそうです。
熊本県獣医師会への相談を経て、5匹は熊本市東区の滝川ペットクリニックで預かってもらうことになりました。
被災したペットや飼い主を支援するため、熊本県獣医師会、熊本県、熊本市は8月4日に「熊本地震ペット救護本部」を設置。県獣医師会の会員病院で犬や猫を一時的に預かる支援を行っています。
「愛と愉快な保護猫たち」さんが獣医師から聞いた説明では、県が預かり費用を負担する期間は1カ月。延長を申請すれば、さらに半月の利用が可能だったといいます。
「とりあえず私は獣医の許可を得て、SNSで里親募集の投稿をしましたが、お声がかかりませんでした」
猫たちの行き先が決まらないまま、時間が過ぎていきました。
10月7日、獣医師から携帯電話に連絡が
状況が動いたのは10月7日でした。
獣医師から携帯電話に連絡が入り、「5匹をそちらで引き取って、里親さんを探していただけませんか」と相談されたのです。めったにない電話だったため、驚いたといいます。
改めて事情を聞くと、飼い主はまだ入院中。住まいも仕事も探せず、猫たちを迎えに行くこともできない状態でした。
無料預かりの期限は過ぎ、費用はかさむ一方。それでも里親は見つかりません。そんな中、飼い主から病院へ「安楽死させてくれ」と電話があったそうです。
獣医師も事情をくみ、預かり料金を抑えて対応していました。しかし、飼い主からは、その費用も払えないと伝えられたといいます。
「どうすることもできず、苦しかったと思います」
「愛と愉快な保護猫たち」さんは、飼い主が置かれていた状況をそう受け止め、猫たちを迎える準備を進めました。
まずは3匹を受け入れ、残る2匹も迎える予定だった
翌10月8日、獣医師を通じて飼い主に伝えてもらい、3歳のメスと、生後2カ月の兄妹猫を自宅へ迎えました。
3歳の猫は避妊手術が済んでおり、3匹とも病院で初期検査を受けてからの受け入れでした。検査費用は獣医師が負担したそうです。
残る大人の猫2匹も、10月9日に検査と避妊手術を受け、状態が落ち着いてから迎える予定になっていました。
投稿では「5匹の猫たちを引き取りました」と紹介されていますが、詳しい経過を聞くと、実際に自宅へ迎えたのは、まず3匹。残る2匹も受け入れる方向で動いている途中に、飼い主から連絡が入ったのでした。
「また一緒に暮らしたい」飼い主の希望を受けて
10月10日、飼い主が獣医師に伝えたのは、大人の猫3匹と再び暮らしたいという願いでした。
「やっぱり大人3匹は手離したくない。また一緒に暮らしたい」
これを受け、「愛と愉快な保護猫たち」さんは、5匹すべてを無料で預かることを提案しました。しかし、飼い主はこの提案を断り、すでに預かっていた3歳の猫を病院へ戻すことになりました。
獣医師は、飼い主との会話から心の状態を強く心配し、まずは本人の希望に沿って対応する考えを伝えたそうです。「安楽死」と口にしたことも、飼い主の心に負担となっている様子だったといいます。
一方で、獣医師からは、今後の状況によっては大人の猫3匹についても受け入れをお願いしたいと伝えられています。
「その時はまたこちらで受け入れます」
「愛と愉快な保護猫たち」さんは、必要になった時には再び手を差し伸べるつもりです。そして、子猫の兄妹には里親希望者が現れました。取材時点では、2匹そろって同じ家庭でトライアル中だそうです。
「愛情がなくなったから手放したわけではありません」
Instagramの投稿には、「色んな想いがあって、悲しくて涙が出ます…」「猫も被災者なんですね」「新しい家族が見つかりますように」といった声が寄せられました。一方、「安楽死」という言葉に厳しい意見を寄せる人もいました。
「愛と愉快な保護猫たち」さん自身も、その言葉だけを聞けば、簡単には受け入れられないと投稿しています。それでも、家を失い、自身もけがをし、大切な猫を迎えに行けなくなった人の苦しさにも目を向けてほしいと話します。
「この子たちには、元々一緒に暮らしていた家族がいます。飼い主さんは、決して愛情がなくなったから手放したわけではありません」
「一緒に暮らしたくても暮らせない。迎えに行きたくても迎えに行けない。そして、最後には手放すという決断をしなければならない。そんな飼い主さんの苦しみを知っていただきたいです」
一時的に猫を預けられても、その期間内に住まいや仕事、健康を取り戻せるとは限りません。今回の経緯からは、預かり期間の後も続く、被災した家族の難しさがうかがえます。
「家族が離れ離れにならなくても済む社会であってほしい」
「今回の5匹には必ず幸せになってほしい。でも本当は、こうして家族が離れ離れにならなくても済む社会であってほしい」
「愛と愉快な保護猫たち」さんが願うのは、災害時にペットと一緒に避難できる環境と、その後も共に暮らし続けられる住まいや支援です。
「そうした仕組みがもっと整っていれば、守れるのは動物の命だけではなく、飼い主さんの心でもあるのかなって」
今回の5匹には、保護される場所があり、飼い主とのつながりもあります。その一方で、被災地には取り残された猫や、迷子になって飼い主と再会できていない猫もいるといいます。
「この子たちの背景にある現実を知っていただき、これからの災害時のペット支援について、一人でも多くの方に考えていただけたらうれしいです」
兄妹猫は、そろって新しい家庭での暮らしを始めています。大人の猫3匹には、「また一緒に暮らしたい」と願う飼い主がいます。それぞれのこれからを見守りながら、「愛と愉快な保護猫たち」さんは、必要になれば再び受け入れる構えです。