「何とかこの子を助けたい」「どうにか保護をしたい」…。
敷地内に突然現れた小さな子猫を心配し、助けを求めた一家。その思いを受け、保護活動をする人たちが現場へ駆けつけました。ところが、子猫が逃げ込んだのは給湯器の中。さらに同じ日の夕方には、別の場所で道路脇にいた子猫が、車のボンネットの中へ入り込む事態が起きました。
2匹の子猫を救ったのは、発見した人や保護活動をする人、里親らによる懸命な連携でした。
この出来事をInstagramに投稿したのは、静岡県富士市を拠点に活動する「NPO法人子猫園ベルソーデシャトンズ」(@berceau1210)。代表を務める高校3年生の赤石朔さんに、当時の状況を聞きました。
夜から翌朝まで鳴き続けていた子猫
最初に相談が寄せられたのは、富士宮市に住む人からでした。
敷地内に突然現れた子猫が、前日の午後8時ごろから翌朝10時ごろまで、ほぼ同じ場所で鳴いていたといいます。少し移動しても、また元の場所へ戻ってくる様子だったそうです。
相談者はちゅーるや子猫用ミルクを用意し、子猫が口にしたことも確認していました。しかし、姿は見えていても、なかなか捕まえることができません。保護する方法が分からず、あちこちへ連絡して助けを求めていました。
「保護できたら我が家でお迎えするつもりです」
「どうにか保護をしたいのです」
その切実な思いを受け、赤石さんは予定を調整し、母親と叔母の3人で現場へ向かいました。
子猫が給湯器の中へ…家族も救出に協力
現場に到着すると子猫の姿を確認できましたが、間もなく給湯器の中へ逃げ込んでしまいました。
内部の様子が分からず、簡単には手も届きません。さらに、その場を離れた隙に子猫が外へ飛び出せば、車にひかれる危険もありました。
「絶対に安全に保護しなければならない」と、赤石さんたちはその場で救出方法を考えます。
そこで協力したのが、最初に子猫を見つけ、相談を寄せた家族でした。家主が給湯器の一部を分解したことで、中の様子が少し見えるようになりました。
赤石さんが反対側から母親のいる方向へ子猫を誘導し、ぎりぎり手が届く場所まで移動した瞬間、母親が子猫をつかみ、無事に保護することができました。
保護されたのは、推定生後1カ月半ほどの白黒の男の子。痩せ気味で、目にも少し症状が見られたといいます。
「相談者さんの『助けたい』という思いと、ご協力があってこそ、救うことができた命でした」
赤石さんは、そう振り返ります。
その日の夕方、今度は道路脇に子猫が
しかし、この日の救出劇は、これで終わりではありませんでした。
夕方になると、静岡市清水区から「道路脇の茂みで子猫が鳴いている」と電話が入りました。近づくと「シャー」と威嚇するため、どうしたらよいのかという相談でした。
電話をしたのは、ある病院のスタッフ。院内に掲示されていた子猫園のポスターを見たことがあり、それをきっかけに連絡したといいます。
実はこの病院を経営する家族は、以前から子猫園と深いつながりがありました。子猫園からこれまで6匹の猫を家族として迎え、正会員として活動を支えている一家でした。
現場は車の通行が多く、子猫が道路へ飛び出せば命に関わります。一方、子猫園がある富士市からは距離があり、赤石さんたちがすぐに向かうことはできませんでした。
そこで赤石さんは、子猫を見失わないよう、相談者の病院スタッフにその場を離れないよう伝えました。
さらに、病院を経営する正会員の家族に協力を依頼。キャリーと洗濯ネットを用意して保護に向かってほしいと伝えたところ、奥さんが現場へ急行しました。
ボンネットの中へ…噛まれながらも救出
奥さんが駆けつけたとき、子猫はすでに道路脇の茂みから移動し、車のボンネットの中へ入り込んでいました。
それでも救出を試み、噛みつかれながらも子猫を無事に保護。その晩は、自宅で預かったそうです。
保護された茶トラの男の子は、推定生後2カ月ほど。赤石さん自身は直接会っていませんが、確認できた範囲では目立った傷や病気を疑う症状はなく、元気な様子だったといいます。
警戒心はまだ強かったようですが、奥さんから届いた報告には、思わず頬が緩むような一幕も。
「怒りながらチュール食べましたよ」
怖い思いをしながらも、しっかり食欲を見せてくれたようです。
赤石さんは、「ポスターを覚えていてくださった相談者さんと、すぐに現場へ駆けつけてくださった里親さん。そのつながりと行動によって、小さな命が救われました」と話します。
2匹とも「おうちの子」に
そして、救出された2匹には、さらにうれしい展開が待っていました。
富士宮市で保護された白黒の男の子は、最初に相談を寄せ、救出にも協力した家族がそのまま迎えることになりました。現在は「おうちの子」として幸せに暮らしているそうです。
清水区で保護された茶トラの男の子も、助けを求めた人が迎えることになり、翌日には新しい家へ。その日のうちに必要なものをすべて準備して迎えにきてくれたことから、保護にあたった里親も「大丈夫」と太鼓判を押したそうです。
「今回は2匹とも、保護から家族との暮らしへとつながりました。そのことを、とてもうれしく思っています」
投稿には、白黒の子猫を迎えた飼い主からもコメントが寄せられました。
「今はお外にいたことが嘘みたいに、まったり家猫生活を送っていますにゃ!!」
さらに「しっかり幸せにします」とつづりながら、「むしろ、幸せにしてもらったのは人間側です」「毎日がハッピー、メロメロです」と、家族になった喜びを伝えています。
ほかにも投稿には、「よかった!!よかった!!感謝です!!」「本当に頭が下がります。ご苦労さまです」「見つけてくれてありがとにゃー」など、子猫の救出を喜ぶ声が寄せられました。
「命を救うことに理由は必要ない」
小学5年生のころから保護猫活動を続けている赤石さん。今回、何よりうれしかったのは、子猫を発見した人が「何とかこの子を助けたい」と思い、そのために実際に行動してくれたことだといいます。
相談した人、給湯器を分解して救出に協力した家族、現場へ急行した里親、そして子猫を家族として迎えた人――。さまざまな人の行動が、2匹の命とその先の暮らしをつなぎました。
一方、活動を続けるなかでは、猫を一つの命としてではなく、「処分すべきもの」のように扱う言葉に接することもあるそうです。医療費などへの協力を求めても拒まれることがあり、命を守る難しさを感じるといいます。
だからこそ、今回の出来事には大きな意味がありました。
「子猫の命を左右する最初の関門は、発見した方がどう動いてくださるかだと思います」
保護する方法が分からなくても、状況を伝えて相談することはできます。さらに赤石さんは、保護団体へ連絡して終わりにするのではなく、家族として迎える、現場で協力する、医療費を支えるなど、それぞれが「自分にできること」を一緒に考えてほしいと話します。
「僕は、命を救うことに理由は必要ないと思っています。目の前で困っている小さな命に手を差し伸べることが、当たり前になる社会であってほしい」
給湯器の中に逃げ込んだ子猫と、車のボンネットの中に入り込んだ子猫。
小さな2つの命は、そこにいた人たちが見過ごさず、「助けたい」と行動したことで未来へとつながりました。
「今回の出来事を通じて、一人ひとりの優しさと行動が、命の未来を変えられることを伝えたいです」