「ゴミか…?」
トラックを運転していた男性が、同僚にそう尋ねました。路肩の白線のすぐそばに、子猫がいたように見えたのです。でも、大型トラックも行き交う道路のあんな場所に、じっとしているはずがない…。
一度は通り過ぎたものの、約300m進んだところで引き返しました。そこにいたのは、左後ろ足から血を流し、鳴いている小さな子猫でした。
当時の出来事をInstagramに投稿したのは、「迷い猫てんちゃん┃Ten」さん(@mayoineko0507)。猫を飼ったことのなかった男性と、今では2歳になった保護猫「てん」ちゃん。その出会いと現在の暮らしについて、飼い主さんに聞きました。
「どうかあの場から逃げていてほしい」
てんちゃんを見つけたのは、2024年5月7日、正午を過ぎたころでした。前日の雨がまだ乾ききっていないものの、その日は晴れ。周囲に田んぼや畑、住宅がある、歩道のない2車線道路を走っていたといいます。
白線の近くに見えた子猫は、自分に向かって「ニャーニャー」と鳴いているようでした。
「まさか、あんな所に子猫がいるわけがない」と思う一方で、これまでゴミを子猫と見間違えた経験などありません。仕事でトラックを運転しているからこそ、その場所の危険も感じていました。
「あれが猫ならば、一刻も早く、あの子があの場所を離れないと、ひかれてしまうと思って焦りました」
引き返す間、願っていたのは、子猫が道路から離れていることでした。
「どうか、あの場から逃げていてほしい。戻ったら踏まれた姿を見るのだけは避けたいな……という気持ちがあったのを覚えています」
しかし、戻った先には、まだ同じ場所にいる子猫の姿がありました。
「ビックリしました。もう私もパニクっていて、『おいおいおいおい』と、考える暇もないくらいに、行動が先走ってしまっていたと思います」
飼い主さんは、その子猫を保護しました。
垂れ下がった左後ろ足 妻へ託して病院に
保護したてんちゃんの左後ろ足は、だらりと垂れ下がり、血がしたたっていました。飼い主さんはすぐに妻へ連絡。「子猫を保護した。けがをしているから迎えに来てほしい。病院にも連れて行ってほしい」と伝え、託したといいます。
動物病院で伝えられた月齢は、推定生後2〜3カ月。飼い主さんによると、レントゲンなどの診察では骨や神経に異常はないと説明されたものの、足は動かない状態でした。けがの原因は分からず、「この子の回復力に期待しましょう」と言われたそうです。
そんな状況でも、てんちゃんは人への警戒心が、あまり強くありませんでした。少し混乱している様子はあったものの、喉を鳴らすこともあり、飼い主さんには懐っこい子という印象が残っています。
自宅に連れ帰った初日は、自力で排泄できるのかが心配で、ずっとそばで見守りました。初めて世話をする子猫がけがをしている…戸惑いは続きましたが、ご夫婦の気持ちは同じだったようです。
「妻も私も、この子のためになら、どんな努力もできる!という暗黙のやる気があったと思います」
もともとは犬派だった男性も「もうメロメロ」
猫が大好きな妻は、てんちゃんを迎える気持ちでいっぱいでした。ただ、その前に、探している飼い主がいないか確かめる必要がありました。
警察へ連絡し、迷い猫の捜索について問い合わせ。保護した場所は自宅から行ける距離だったため、飼い主さんは仕事を終えた後も現場へ足を運び、てんちゃんの家族を探したといいます。しかし、周囲にほかの猫の気配はありませんでした。
約1週間が経っても警察から連絡はなく、ご夫婦はてんちゃんを家族として迎えることにしました。
「私はもともと犬派ですが、あまりのかわいさと、出会いのインパクトから、もうメロメロになっていました」
名前を決めたのは妻でした。「こてん」と転ぶように横になる姿から、「てん」ちゃんに。雨続きの日々の中、晴れた日に保護したことにも、名前と通じるものを感じたそうです。
「首をかける日まで」に込めた願い
現在、てんちゃんは2歳。飼い主さんによると痛みはないものの、後遺症が残り、足を上げたり、首をかいたりすることが難しいといいます。ほかの猫と遊んでいても、飛び乗ろうとした場所に思うように届かず、ぶつかってしまうこともあるそうです。
Instagramのプロフィールにある「てんちゃんが、首を掻ける日まで」という言葉には、「いつか首がかけたらいいなぁ」という願いが込められています。
一方で、日々の姿には成長も感じています。せわしなく遊んでいた子猫のころから落ち着きが増し、今は「ドッシリ構える男になっているような印象」なのだとか。
てんちゃんとの暮らしは、飼い主さん自身にも楽しみをもたらしました。趣味のカメラで写真を撮ること。そして、その日常をInstagramで発信すること。てんちゃんが被写体になってくれるおかげで、どちらの喜びも増えたといいます。
「てんちゃんに出会っていなかったら、何を楽しみに過ごしていたのか想像がつきません」
路肩に見えた小さな影が気になり、引き返したあの日。そこで出会った子猫は今、飼い主さんが毎日感謝しながら暮らす、大切な家族になっています。