近隣で見つけた衰弱した猫を、放っておけずに保護する。そうしたことを重ねるうちに、公営住宅で暮らすある飼い主のもとには、多いときで30匹近くの猫が集まっていたという。飼い主は自分で不妊去勢手術を進めていたが、費用の負担や人に慣れていない猫の捕獲が壁となり、すべての猫に手術を受けさせることは難しかった。
こうした現場の手術費用を支援する仕組みの一つに、公益財団法人どうぶつ基金の「多頭飼育崩壊救済枠」がある。今回、相談を受けた保護団体「かごねこ」さん(@kago_neko_)は、行政を通じてこの制度を申請し、飼い主の手術費用の負担をなくす方法を検討した。
しかし、ペットの飼育が認められていない公営住宅だったことから、申請は進められなかったという。市の助成も、飼い主のいない猫を対象としており、今回の猫たちは対象外だった。
「まずは、これ以上増やさない。今いる頭数で止める」
動物病院を母体とするかごねこさんは、独自に費用を負担し、捕獲から不妊去勢手術、皮膚病の治療まで実施した。活動の経緯と、支援制度を利用できなかった事情について話を聞いた。
支援制度があっても、申請できなかった理由
かごねこさんによると、行政からは、飼育が認められていない住宅での支援を申請することは、そこでの飼育を容認することにつながるため、申請できないと説明されたという。また、市の助成制度は飼い主のいない猫が対象で、飼い主がいる今回の猫たちは利用できなかった。
「飼い主さんには、適正な飼育と、最期まで責任を持って世話をすることが求められます。また、住宅の飼育ルールへの対応も必要です。一方で、すでにそこにいる猫の繁殖を止め、健康状態や生活環境を改善するための支援も必要です」
住宅のルールへの対応は必要だ。しかし、その場所にいる猫たちの繁殖や、健康上の問題にも対処しなければならないと、かごねこさんは指摘する。利用を検討した制度では支援を受けられず、かごねこさんが費用を負担して対応することになった。
「約30匹」との相談、訪問して分かったこと
地元の保護団体から相談が寄せられたのは、7月ごろのことだった。
当初伝えられたのは、公営住宅の室内で約30匹の猫が飼われ、猫たちが部屋を占拠するような状態になっているという話。室内にはごみが散乱しており、猫を全頭捕獲して手術を受けさせ、その間に清掃したいという相談だった。
一部の猫は周辺にも散らばっており、外で暮らす猫については、すでにTNRを実施したと聞いたという。TNRとは、猫を捕獲し、不妊去勢手術をして元の場所へ戻す取り組みだ。
しかし、かごねこさんが実際に訪問した時点では、不要なものは処分され、室内は整理されていた。飼い主自身が、すでに2匹に不妊去勢手術を受けさせていたことも分かった。このとき、未手術の猫はおおよそ10匹と説明されたという。
猫たちの栄養状態に、大きな問題は見られなかった。一方、重度の皮膚病を患う猫が複数いて、人にはほとんど慣れていなかった。日々世話をしている飼い主にも、慣れていない状態だったそうだ。
飼い主は、近隣で衰弱した猫を見つけるたびに放っておけず、保護した結果、最も多いときには30匹近くになったと説明した。ただし、過去の繁殖状況も含め、頭数が増えた詳しい経緯は十分に確認できていないという。
多くの猫の日々の飼育費用に加え、全頭の手術費用を捻出するのは大きな負担になる。さらに、人に慣れていない猫を捕まえ、病院へ連れていくことも難しかった。
かごねこさんは、こうした現場では手術費用の支援だけでなく、捕獲や運搬の支援も必要だと話す。
空腹でも捕獲器に入れない猫たち
支援は、捕獲器を置けば進むというものではなかった。
かごねこさんは飼い主と話し合い、猫たちの警戒心を踏まえて捕獲計画を立てた。周辺での繁殖の可能性も考え、近隣への聞き取りも実施。地域では以前から、猫に餌を与える人と、猫による被害に困る人との間で、たびたびトラブルが起きていることも分かった。
室内には想定される頭数を上回る数の捕獲器を設置したが、ほかの猫が捕まる様子を見て怖がり、身を縮めて動かなくなる猫もいたという。
「今回は空腹よりも恐怖や警戒心が強く、動けなくなっている猫が多い状況でした」
猫の動きを観察し、通り道になりそうな場所へ捕獲器を移すなど、一匹ごとの行動に合わせて対応。スタッフが連携し、鎮静剤も使用しながら捕獲を進めたが、予定以上の時間がかかった。
さらに、診療の段階で、事前の説明とは異なる状況も見えてきた。
飼い主からは、オスとメスはいるものの、長く子猫は生まれていないと聞いていた。しかし、手術時の所見から出産後と考えられるメスが3匹おり、うち1匹は出産から数日程度と推定されたという。
捕獲時には子猫の姿や鳴き声を確認できず、子猫の所在やその後の経過は分かっていない。飼い主が把握している情報だけでは、繁殖の実態を確認しきれない難しさもあった。
調査や日程調整、捕獲・運搬、手術までに要した期間は1カ月弱。不妊去勢手術に加え、ワクチン接種、ノミ・ダニの予防、皮膚病の治療も実施した。費用は20万円以上に上るという。
手術を終えても、対応は続く
現在、猫たちはこれまで暮らしていた場所で生活し、飼い主が日々の世話や見守りを行っている。かごねこさんも定期的に訪問し、状況を確認する予定だ。
公営住宅の敷地内や周辺には、ほかにも多くの猫が見られる。他団体や行政の協力を得て調査を進め、未手術の猫を確認した際には、その都度TNRにつなげていくという。
かごねこさんが活動の様子を伝えたSNSの投稿には、活動への感謝とともに、支援者の善意に頼る状況や、再発を防ぐ仕組みを問う声も寄せられた。かごねこさんも、既存の制度を利用できない場合に、別の支援へつながる道筋が必要だと感じている。
「費用の支援だけでなく、捕獲や運搬、手術後の管理まで含めた支援がなければ、解決が難しいケースもあります。その負担が個人や一つの団体に集中する形では、支援を続けることにも限界があります」
未手術の猫が残っていないか、新たな猫が来ていないか。継続して確認し、一つのお宅だけでなく、地域全体の問題にも目を向ける必要があるという。
目の前の猫たちへの処置は、解決に向けた一歩だ。住宅の飼育ルールへの対応や、継続的な管理など、残る課題もある。
「猫が増えて困っている状況を当事者だけの問題と捉えず、早めの相談や地域での協力につなげていただけたらと思います」
かごねこさんは「保護する社会から、保護しなくていい社会へ」という思いで、今後も取り組んでいく。