「お兄さん、カッコええねー」
電車の中で、70代くらいの女性から突然そう声をかけられた男性がいます。
「ありがとうございます。実はこれ、障害のある方向けに開発した服なんですよ」と答えると、女性はとても興味を持ち、隣に座って20分ほど会話が弾みました。
見知らぬ人との出会いをつづった投稿が、SNS上で注目を集めています。投稿したのは、兵庫教育大学大学院で教授を務める「小川修史 NextUD LAB.さん(@OgawaHisashi)」。小川さんに当時のやりとりを聞きました。
「こんな服があると知れて、本当にうれしかった」
小川さんが着ていたのは、頭からかぶった後に襟元をマジックテープ(面ファスナー)で留められるトップスや、車椅子に座ったままでも前で重ね合わせて簡単に着脱できる巻きスカート風のボトムスです。介助者にとっても着せやすい構造になっており、座った姿勢でもきれいなシルエットが出るように工夫されています。
会話の中で服の機能性や開発の意図を伝えると、女性は自身の息子さんに知的障害と身体障害があることを明かしました。女性自身がおしゃれが大好きで、本当は息子にもおしゃれを楽しませてあげたかった――そんな思いも打ち明けてくれたといいます。
「こんな服があると知れて、本当にうれしかった。ありがとう」
別れ際、女性はそう感謝を伝えてくれました。「これからも頑張ってね。応援してるから」「私もいろいろな人に伝えておくね」と温かい言葉もかけられたそうです。
偶然の出会いから生まれた言葉に、小川さんは「純粋にうれしかったですし、デザイナーと二人三脚で服をデザインしてきて本当に良かったなと感じています」と振り返ります。
「使いやすい」だけでなく「かっこいい」から広がるデザイン
この服が生まれたきっかけは、小川さんのゼミに通う学生からの「障害とファッションに関する研究をしたい」という一言でした。
従来のユニバーサルデザインで重視されてきたのは、誰もが使いやすいという「機能性」です。そこに「楽しさ」や「魅力」という価値を加えたのが、小川さんたちの進める新しいユニバーサルデザイン「NextUD(ネクスト・ユーディー)」。障害の有無にかかわらず、誰もが「かっこいい」「かわいい」「使ってみたい」と感じられるデザインを目指しています。
デザイナーのタニグチアイさんとともに、小川さんは障害のある方の着脱のしやすさに配慮しながら、誰もが自由に選んで楽しめる服の開発を重ねてきました。
障害のある方のために作られた服であっても、まずは純粋に「かっこいい」と感じてもらうことが、社会の理解や共感につながると実感しているそうです。
投稿には「なんか普通にかっこいいです」「素敵な装いですね」「なんて美しいんでしょう、とてもエレガントですね。私の国でこんなものが売っていないのが残念です」といった称賛のコメントが寄せられ、国内外から温かい声が集まりました。
中でも小川さんが好きだと話すのが、「普通にかっこいい」というコメントです。
「この『普通に』という言葉には、障害の有無を意識せず、一つのファッションとして自然に受け入れていただけたという意味を感じています。まさにNextUDが目指している姿だと思います」
もう一つ印象に残ったのが、「ひろまれー」というコメントとのこと。活動を自分ごとのように応援し、一緒に広めようとしてくれる気持ちが伝わってきたといいます。
今回投稿したのは、NextUDの活動や考え方が少しずつ社会に広がっていることを、いつも応援してくれている人たちにも伝えたかったからだそうです。1着の服から生まれた出会いが、NextUDの目指す社会を着実に広げていきます。