親戚や身近な人の葬儀に参列する機会が増え、自分の最期についても話すようになった75歳の母。ところが、葬儀の話になると、必ず同じお願いをするそうです。
「火葬するときは、絶対に死んでいることを確認してからにしてね」
娘のSさんは、その言葉を聞くたび、何とも言えない気持ちになるといいます。
「死んですぐ焼かないで」が口癖に
母が特に心配しているのが、火葬です。
「死んですぐ焼かないでね。ちゃんと確認してからにしてね」
その理由を尋ねると、
「もしかしたら蘇るかもしれないから」
と真顔で話すのだそうです。
母が恐れているのは、万が一、仮死状態のまま亡くなったと判断され、火葬されてしまうこと。
「もし本当は生きていたら、焼かれている途中で目が覚めるかもしれないでしょう。そんなの絶対に嫌」
母にとっては、かなり切実な問題です。
しかも、この「蘇るかもしれない」という発想は、火葬の話に限りません。
先日、Sさんが妹と母と3人で話していたときのこと。妹が「以前から自宅にあった、数年間止まったままの機械式の古時計が、先日の地震の揺れで動き出した 」と話しました。
すると母は「私も蘇るかも」と一言。
母の理屈では、「古時計でさえ少しの衝撃で動き出すのだから、自分も何かの拍子に蘇るかもしれない」ということらしいのです。
Sさんと妹は、思わず顔を見合わせたそうです。
娘を悩ませる「どう確認するの?」
Sさんは、母の希望を無視するつもりはありません。できることなら、最期の願いとして聞いてあげたいと思っています。
ただ、「死んでいることを確認して」と言われても、具体的に何をすればいいのでしょうか。
「母の気持ちは分かるので、もちろん希望は聞くつもりです。でも、いざそのときになったら、私は誰に何を確認すればいいのかと思ってしまいます」
葬儀の話をするたびに念を押される「死んでることを確認してから焼いてね」という母の言葉。
Sさんは苦笑しながらうなずきます。
けれど、いつか本当にその日が来たとき、Sさんの耳にはきっと、母のあの言葉がもう一度蘇るのでしょう。