「一時期、私以外の家族全員がマルチ商法にハマっていたんです」
そう振り返るのは、都内で会社員として働くNさん。今から10年ほど前、実家はなかなか大変な状況になっていたといいます。
国民生活センターによると、マルチ商法に関する相談件数は年々減少傾向にあるものの、昨年も約4,000件に上ったそう。件数こそ減っているとはいえ、今なお身近なトラブルのひとつとして、たびたび話題に上る問題です。
母は化粧品、兄は高額な味噌
Nさんの母親がまず夢中になったのは化粧品でした。
家には商品が入った段ボール箱が積み上げられ、到底さばき切れるとは思えない量だったのだとか…。
「使用期限もあるし、もうやめたら?って何度も言いました。でも直属の上司を盲信していて、私の話なんて聞いてくれなかったんです」
上の兄が始めたのは、高額な味噌の訪問販売。大きな樽を車のトランクに積み、ひとつ2万円弱で販売していたそうです。
さらに下の兄まで、聞いたこともない保険を扱うビジネスにのめり込んでいきました。
妹への勧誘に、兄がまさかの一喝
ある日、ついに下の兄がNさんに保険を勧めてきました。
「損はさせないから」「こんなに条件のいい保険は他にない」
断っても、なかなか引き下がりません。困り果てたNさんは、上の兄に助けを求めました。すると事情を聞いた兄は、弟に向かって声を荒らげたのです。
「家族をマルチ商法に巻き込むな!」
しかし、下の兄はこれに応戦。
「兄ちゃんこそマルチだろ! どう考えてもだまされてるぞ!」
そこからは、お互いの商売を「あやしい」「だまされている」と批判し合う兄弟ゲンカに発展し…。
「2人とも、相手のことなら分かるのか」
互いの問題点は驚くほどよく見えているのに、自分のこととなると気づかない。
「私からしたら完全にどっちもどっちなので、しばらく冷めた目で見守っていたんですが…」
やがてNさんは、その滑稽すぎる状況に笑えてきてしまったのだとか。「もう、このまま2人で潰し合ってくれ」と、ヒートアップする兄たちを残してそっと部屋を出たそうです。
それぞれが痛い目を見て、10年後の今は
幸い、これは10年ほど前のお話です。
その後、自腹購入がかさんで痛い目を見たり、勧誘が原因で友人を失ったり…。それぞれが苦い経験をした末、少しずつ目を覚ましていきました。
現在は、家族全員がこうした商売から離れているといいます。
「あの頃は何を言っても聞いてくれませんでした。結局、自分で痛い目に遭い、自分のタイミングで気付くほかなかったんだと思います」
今でこそ昔話になったといいますが、一時期は家族がバラバラになる寸前だったそうです。
夢中になっているときほど、自分を客観的に見るのは難しいもの。「自分だけは大丈夫」と思ったときほど、一度立ち止まり、身近な人の言葉に耳を傾けるべきなのかもしれません。
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【出典】
▽国民生活センター