駅前の夜空を悠然と飛ぶ一羽のタカ。その下では、女性の鷹匠(たかじょう)が鋭いまなざしでタカの動きを見守っています。
一体、何をしているのでしょうか。実はこれ、駅前に集まるムクドリを追い払うための作業なのです。
Instagramに投稿された動画には、「女性の鷹匠、めちゃくちゃかっこいい」「鷹匠は伝統の継承のみならず、こういったところでも活躍できる生活に根差した職業なのですね!」「ムクドリに悩んでる場所に出張で行って欲しい」など、多くの反響が寄せられています。
投稿したのは、千葉県流山市の猛禽類専門店「鷹の庵【鷹匠体験とバードショー】」(@takanoan)。動画に登場するハリスホーク(タカ科)の「風恋(かれん)」ちゃんとともに、駅前で行われているムクドリ対策について詳しく聞きました。
駅前を悩ませるムクドリの騒音とフン害
今回、風恋ちゃんが出動したのは千葉県内にあるJRの駅。駅名は非公表ですが、ムクドリによる被害はかなり以前から続いているといいます。
問題となっているのは、駅を利用する人や近隣住民を悩ませる鳴き声による騒音やフン害です。
「鷹の庵」がこの場所でムクドリ対策を行うのは今年で3年目。今年は比較的早い時期に作業を始めたため、ムクドリの数はまだ控えめだったそうです。一方、ムクドリが居つく場所に昨年とは変化が見られました。
では、タカはどのようにしてムクドリを追い払うのでしょうか。
「ねぐらに入ったタイミングでタカを放つことで、この場所が安全なねぐらでなくなったと思わせるようにしています」
ムクドリを力ずくで排除するのではなく、タカという存在によって「ここは安全ではない」と認識させるという方法です。「鷹の庵」では、「自然の摂理を利用した環境にやさしい対策」だと考えています。
ただし、一度追い払えばすべて解決するわけではありません。
「違う群れが入ってきてしまうこともありますので、現状は来たら追い払う対症療法のようなものだと思います」
ムクドリの動きを見ながら、継続して対応していく必要があるのです。
タカもムクドリも事故に遭わせない「6人体制」
動画だけを見ると、タカを飛ばすというシンプルな作業にも見えます。しかし、現場は多くの人や車が行き交う駅前です。そのため、何よりも重視しているのが安全だといいます。
「駅前ですので通行人にご迷惑をかけないことを第一に考えています。また交通量も多いのでタカもムクドリも事故に遭わないように、この日も6人体制で作業に当たっています」
人だけでなく、タカとムクドリ双方の安全にも気を配りながら作業を進めています。
現場によって状況はさまざま。「鷹の庵」では、必要に応じてタカだけでも6羽を使い分けることがあり、作業は必ず複数人で行っているそうです。
約20年にわたり猛禽類の調教に携わってきた「鷹の庵」。近年はタカやハヤブサを使った狩りも行っています。
一方、猛禽類を使った害鳥対策の認知度が高まるにつれ、作業をする側も「玉石混交になってきている」と感じているといいます。だからこそ、「この道のプロとして安全面を第一に考えて業務に当たっています」と話します。
「自分も大会に出てみたい」両親の姿を見て鷹匠の道へ
今回の投稿で、風恋ちゃんとともに注目を集めたのが“鷹嬢”(女性の鷹匠)で高校3年生の長女さんです。「女性の鷹匠、めちゃくちゃかっこいい」といった声も寄せられていますが、猛禽類に携わるようになったきっかけは、両親の姿でした。
「長女は私たち夫婦が大会でタカを飛ばしているのを見て、自分も出場してみたいと思ったのがきっかけとのことです」
その後、高校生になってから家族の仕事を手伝うようになり、現在では害鳥対策の現場にも立つようになりました。今後もこの仕事を続ける意向だといい、両親は「成長が楽しみです」と温かく見守っています。
伝統的なイメージも強い「鷹匠」ですが、現代では害鳥対策という私たちの暮らしに身近な場所でも、その技術が生かされています。
「鷹の庵」では害鳥対策だけでなく、猛禽類を身近に感じてもらう活動にも力を入れています。
千葉県柏市の「道の駅しょうなん」では毎月、猛禽類とふれあえる「鷹匠体験」やバードショーを開催。各地のお祭りや道の駅などでも「猛禽フライトショー」や「出張鷹匠体験」を行っています。
夜の駅前で人知れず行われていたムクドリ対策。その舞台裏には、タカの能力を生かしながら、人、タカ、そして野鳥の安全を守ろうとするプロたちの仕事がありました。