都内の企業に勤める55歳の田島美恵子さん(仮名)は、85歳の父と隣県にある実家で2人暮らしをしています。父は半年前に脳梗塞で倒れ、右半身に重いまひが残りました。自力での起き上がりや食事が難しくなり、要介護3の認定を受けてベッド上で過ごす時間が長くなっています。週5回デイサービスを利用し、訪問介護や訪問看護、さらに必要なときにはショートステイを活用しながら在宅介護を続けていました。
ある日、田島さんは父の年金振込通知書を見て手が止まりました。年金から介護保険料が天引きされていたからです。介護サービスを受ける立場になったのに、なぜ介護保険料を払い続けなければならないのでしょうか。介護費用に加えて保険料の負担が続けば、今後の生活が立ち行かなくなるのではないかと強い不安を抱きました。
要介護状態になっても、介護保険料の納付が続く制度の基本的な仕組みと、負担が重いと感じた際の具体的な相談先について知り、必要があればすぐに手続きができるよう準備をすることで、その不安に対処していきましょう。
介護サービスを利用していても続く保険料納付の背景
介護保険は、社会全体で介護を支え合うことを目的とした制度です。介護保険法に基づき、65歳以上の人は第1号被保険者となり、介護保険料を納付する義務があります。この保険料は、要支援や要介護の認定を受け、実際に介護サービスを利用する立場になっても納付が続きます。
介護が必要になったからといって、自動的に保険料が免除されるわけではありません。受給している老齢年金などの金額が年額18万円以上の場合は、原則として年金から介護保険料が天引きされます。これを特別徴収と呼びます。年金から直接差し引かれるため、手元に入る年金額が想定より少なく感じられ、戸惑う人が少なくありません。
要介護状態になっても保険料の負担が続くことは、個人の準備不足が原因ではなく、制度上の原則によるものです。介護保険制度を維持するためには世代間の支え合いが不可欠であり、サービス利用者も被保険者として費用の一部を負担する社会構造になっているためです。
介護保険料の決まり方と負担を軽減するための相談先
介護保険料は、お住まいの自治体の介護サービスに必要な費用や、ご本人および世帯の所得・課税状況などによって決まります。さまざまな要因で決定されるため、正確な仕組みを理解しておくことが大切です。
所得段階や自治体による保険料の違い
65歳以上の人の介護保険料は、市区町村ごとに基準額が設定されています。さらに、前年の合計所得金額や、世帯全員が住民税非課税であるかなどの条件に応じて、複数の所得段階に分けられます。所得段階ごとに保険料が決まるため、年金収入が少ない場合は保険料が低く設定される仕組みです。
また、市区町村ごとに介護サービスの整備状況などが異なるため、基準額自体も自治体によって差があります。同じ所得状況であっても、居住する地域が違えば、納める保険料の金額が異なる場合があります。
負担が重いと感じた場合の具体的な相談先
父親の介護保険料が、なぜこの金額なのか疑問に思った美恵子さんは、まず高齢者の生活全般の相談を受け付けている地域包括支援センターに連絡をしました。ここには社会福祉士や保健師、主任ケアマネジャーなどの専門職が配置されており、制度の利用や生活の困りごとについて、具体的な支援制度や福祉サービスのアドバイスをもらえます。
美恵子さんはアドバイスを受け、居住する市区町村の介護保険担当窓口へ出向き、介護保険料について相談をした結果、父の所得状況に応じた正確な月額の保険料を確認することができました。また、生活が困窮していると認められる場合は、申請により自治体独自の保険料の減免を受けられる可能性があることを知りました。さらに、1カ月の介護サービス利用者負担額が一定の上限を超えた場合に払い戻される「高額介護サービス費」という制度の説明を受けました。
納得して不安を解消するために相談する
美恵子さんは、市区町村の窓口や地域包括支援センターで相談を重ねたことで、父の保険料に関する疑問を解消し、先の見えない不安から抜け出すことができました。現在の家計状況を専門職と共有し、利用できる制度を確認したことで、在宅介護を続ける見通しを立てることができました。
準備に早すぎるということはありません。動こうかなと思った今が、最初の一歩を踏み出すタイミングです。介護保険料の金額や減免制度の利用条件については、お住まいの市区町村の介護保険担当課や、地域包括支援センターの専門職へ問い合わせて確認することをお勧めします。
【出典】
厚生労働省「介護保険制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
厚生労働省「介護保険制度について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001238058.pdf
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。