「取引先の業務見直しやAI活用の影響で仕事の依頼が減り、来月の家賃や生活費も払えそうにない……」
一人暮らしでフリーランスのイラストレーターとして働く40代の中野まゆさん(仮名)は、急な収入減で生活に困っていました。親とは数年間ほとんど連絡を取っておらず、以前から仕事や生活について厳しく言われることもありました。
そのため、生活に困っていることを知られれば、再び責められるのではないかという不安がありました。きょうだいとも疎遠で、今さら援助を頼める関係ではないと感じています。
生活保護について調べるうちに、親族に援助できるか確認する「扶養照会」があることを知った中野さん。「申請したら親やきょうだいに連絡されるのではないか」と不安になり、福祉事務所への相談をためらっていました。
生活保護を申請すると、親族には必ず連絡がいくのでしょうか。扶養照会の仕組みと、親族への連絡に不安がある場合に福祉事務所へ伝えたい事情を確認します。
生活保護を申請すると親やきょうだいに知られる?
「生活に困窮していることを親やきょうだいに知られたくない」「もう何年も疎遠になっている親族にまで自分の窮状を知られるのは耐えられない」
自立した生活を送ってきた人ほど、このように強い抵抗感を抱くこともあるでしょう。「親族には頼れない」「心配をかけたくない」と考え、限界まで抱え込んでしまう場合もあります。
そのため「申請すると必ず親族に連絡がいき、居場所や生活状況がすべて知られてしまう」と思い込み、相談を先延ばしにしてしまう人もいます。
しかし、生活保護を申請したからといって、必ず親族に連絡がいくわけではありません。
扶養照会は誰に、何を確認する?
◇親族への援助確認は強制ではない
扶養照会とは、生活保護の申請があった際、福祉事務所が申請者の直系血族(親・子どもなど)や兄弟姉妹に対して、経済的な援助が可能かどうかを確認する手続きのことです。
民法上、直系血族や兄弟姉妹には扶養義務があります。親族から実際に援助を受けられる場合、その援助は生活保護に優先します。ただし、親族から援助を受けられないことを証明したり、申請前に親族へ相談したりする必要はありません。
扶養照会は、あくまで可能な範囲で援助できるかという意向を確認するものであり、親族に借金の肩代わりや強制的な援助を求める手続きではありません。
◇親族に連絡してほしくないときの伝え方
一方で、親族との関係性やこれまでの経緯によっては、扶養義務の履行が期待できないとして、扶養照会を行わない場合があります。
厚生労働省の通知では、主に以下のような事情が例として示されています。
・DVや虐待などの経緯があり、照会によって本人の自立を妨げるおそれがある場合
・特定の親族とおおむね10年間程度にわたり音信不通である場合
・相続を巡る対立や絶縁など、著しい関係不良がある場合
・親族が生活保護を受けている、長期入院中、未成年、おおむね70歳以上など、扶養が期待できない場合
これらに当てはまれば一律に照会されないわけではなく、厚生労働省の指針(判断基準)に基づいて福祉事務所が個別に判断します。
「連絡されると生活の立て直しに支障が出る」「長年疎遠で、著しく関係が悪い」といった具体的な事情がある場合は、相談時に福祉事務所へ伝えることが大切です。
口頭で伝えるだけでなく、これまでの関係の経過をまとめたメモを持参すると、事情を説明しやすくなります。
生活が立ち行かなくなる前に福祉事務所へ
中野さんは、生活を立て直すために、福祉事務所の窓口で収入の状況や両親との関係を説明し、生活保護を申請しました。
生活保護を受けられるかどうかは、収入や資産、生活状況などの調査を経て、福祉事務所が判断します。扶養照会についても、本人から聞き取った事情を踏まえて個別に判断されます。
自営業やフリーランスで働いてきた人の中には、「誰にも迷惑をかけずに、自分の力で解決しなければ」と思い詰めてしまう人もいます。しかし、家賃を滞納したり、食費を削って体調を崩したりするところまで追い詰められると、かえって仕事や生活を立て直すことが難しくなる場合があります。
生活保護は、生活に困窮する人に必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに、自立を助けることを目的とする制度です。
「親やきょうだいに知られるのが怖い」という不安がある場合は、その事情を福祉事務所の窓口で具体的に説明してください。説明した事情を踏まえ、扶養照会を行うかどうかが個別に判断されます。
生活が立ち行かなくなる前に、現在住んでいる地域を所管する福祉事務所の生活保護担当へ相談することが大切です。
【出典】
厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatsuhogopage.html
厚生労働省「生活保護の基本的な実務」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001482897.pdf
厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」
https://www.mhlw.go.jp/content/000746078.pdf
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。