自身のトラウマ体験は思い返すだけでつらいものですが、伝えることで誰かの力になるのかもしれません。尾持トモさんの作品『人生崩壊 会社ぐるみのいじめで苦手な人と無理やり付き合わされました』は、作者の新入社員時代の信じられない実体験が描かれています。同作はInstagramに投稿されると、合わせて約1000のいいねが寄せられました。
22歳の作者は、新卒としてあこがれだった会社に入職します。一生懸命働いていたある日、女性課長は「若いうちから誰でも彼氏作っとかないと」と作者にいい、『クリスマスケーキ理論』を打ち出します。
これは、クリスマスイブの12月24日になぞらえて「24歳の女性が一番人気で、25歳以上になると売れ残る(結婚適齢期を逃す)」という、昭和~平成初期に提唱された理論です。他の女性たちも課長に賛同し、「行き遅れてから後悔しても遅い」と、しつこくいいます。作者は、彼氏の有無は仕事には関係ないといいたかったものの、強くは出られませんでした。
そんなある日、課長は他部署の部長・嫌田を彼氏に勧めてきます。この会社では52歳の嫌田だけが独身とのことですが、彼はよく作者を怒鳴りつけたり舌打ちしたりするため、苦手意識が強くありました。
作者は付き合えないときっぱり断りますが、課長は激怒し「本当に売れ残るよ!?」とまくし立てます。「嫌田さんと付き合うなんて無理無理!」といっていた他の女性上司たちも、課長に釣られるように「いいから嫌田さんと付き合いなさい!」と、強い剣幕で攻め寄ってきました。
それからというものの、作者は毎日同僚から嫌田と付き合うよう詰め寄られることになります。仕事中だけでなく、休憩中までいわれ続けるため、少しずつ精神的にもつらくなってきました。
その後、作者は会社の飲み会に参加します。しばらく飲んでいると、いきなり席をチェンジするよう求められました。その席とは、なんと嫌田との2人席。周囲の同僚は、作者と嫌田を笑いながら見つめています。
すると、嫌田は照れながら「俺と付き合ってくれませんか!」と告白しました。「やばい」と身震いが止まらない作者でしたが、周囲は大盛り上がり。付き合えと手拍子で圧をかけてきます。そのうえ、社長は「振ったらクビだぞ!」と笑顔で作者にいうのです。
今となれば、どう考えてもおかしいのは明らかですが、作者は当時、社会人経験も乏しかったうえに非正規雇用だったため、断ったら本気でクビにされると身も震える思いでした。その結果、作者は嫌でも付き合うという選択肢しかなかったのでした。
読者からは「こんな会社最低すぎる…」「訴えてもいいレベル!」など、同情の声が寄せられています。そこで、作者の尾持トモさんに話を聞きました。
「一人で抱え込まなくていい」と思えるきっかけになれば
――ご自身の経験について、作品にしたきっかけを教えてください
会社ぐるみのパワハラやセクハラ、そして苦手な相手との交際を強いられた経験は、当時の私にとって、人生が大きく変わる出来事でした。
当時は「自分がおかしいのかもしれない」と思い込んでしまうほど、正常な判断ができなくなっていました。しかし、時間が経ってから振り返ると、同じような環境で苦しんでいる方も少なくないのではないかと思うようになりました。
この経験を、ただつらい思い出として終わらせるのではなく、漫画という形で残すことで、実際にこのようなことが起こる場合もある」と知っていただきたいと思いました。そして、今まさに同じような状況に置かれている方にとって、少しでも支えになる作品になればという思いから、漫画にしました。
――ご自身の体験を思い返して作品にするには、おつらいことも多々あったかと思います
当時のことを思い出しながら描くのは精神的につらく、何度も手が止まりました。一方で、必要以上に演出を加えるのではなく、「実際に自分が感じた怖さ」や、「会社ぐるみで追い詰められることによって、少しずつ感覚がまひしていく過程」が伝わるよう、できるかぎり実体験に忠実に描くことを意識しました。
読んだ方からは、「なぜ逃げられなかったのか」という声も多く届きました。しかし、追い詰められた状況では、正常な判断をすること自体が難しくなる場合があります。外から見れば不自然に思える行動であっても、当事者には逃げるという選択肢が見えなくなってしまうことがある。そのことも、この作品を通して伝えたかったことのひとつです。
――この作品を、どのような方に読んでいただきたいですか?
今まさに職場の人間関係やハラスメントで悩んでいる方はもちろん、新社会人の方や、これから就職・転職を控えている方にも読んでいただけたらうれしいです。
作品のなかでは、退職代行や傷病手当金についても触れています。傷病手当金を受給するために、退職前にどのような手続きが必要になるのかなどの情報も描きましたので、少しでも参考になればと思います。
つらい環境に置かれていると、「会社がおかしいのではなく、自分がおかしいのかもしれない」と思い込んでしまう方も少なくありません。この作品が、「そんな環境から離れてもいい」「一人で抱え込まなくていい」と思えるきっかけになれば幸いです。
<尾持トモさん関連情報>
▽Instagram
https://www.instagram.com/o0omotitomo0o/
▽ブログ『尾持トモの漫画Blog』
https://omotitomo.blog.jp
▽コミックエッセイ『人生崩壊 会社ぐるみのいじめで苦手な人と無理やり付き合わされました』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CSJL3RF1
▽他作品はこちらから読めます(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/stores/author/B0G4W28KWQ