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撫でる手を止めると…元保護犬が前足で「もっと」と催促 多頭飼育崩壊から救い出され、家族と交わす控えめな「甘え」のしぐさ

梨木 香奈 梨木 香奈

生後3週間で救出、飼い主さん夫婦と運命の出会い

幸子ちゃんと飼い主さんが出会ったのは、米国・ニューヨーク市で開かれた保護団体の譲渡会でした。当時、米国へ移住して間もなかった飼い主さん夫婦は、現地でしばらく暮らす予定だったことから、何度も話し合った末に犬を迎えることを決めました。

譲渡会を訪れた当初の目的は、オンラインで見かけた別の犬に会うこと。しかし、その犬とはご縁がつながらず、そこで出会った幸子ちゃんに飼い主さんがひと目ぼれしました。

幸子ちゃんは、ニューメキシコ州で100頭近い犬が劣悪な環境に置かれていた、大規模な多頭飼育崩壊の現場出身です。生後3週間で保護され、10カ月を過ぎるまで保健所で生活。その後、ニューヨークの保護団体へ移送されました。

一度は別の家族のもとでトライアルを経験しましたが、うまくいかず保護団体へ戻ることに。そうしたタイミングで、飼い主さん夫婦と巡り合いました。

「分離不安があり、社会化もほとんどできていませんでした。体の大きさに比べてものすごい怪力の野生児だったので、最初はとにかく大変でした。たくさん悩みましたし、夫婦でけんかもしましたし(笑)、何度も泣きました」

人への警戒心も強く、特に初対面の大柄な男性には、おびえて吠えることもありました。最近では人見知りも和らぎ、ドライな性格はそのままに、少しずつ甘えん坊になってきたそうです。

「幸子が来てから、本当にたくさん幸せにしてもらいました。わが家のひとりっ子として、今では幸子がいない暮らしは考えられません」

米国では、コロナ禍に何度も長距離の引っ越しを経験しました。それでも車での移動や新しい環境に順応し、家族とともに過ごしてくれたことに、飼い主さんは感謝しています。昨年11月には、乗り継ぎを含む24時間の移動を経て、米国からタイへ移住。ホテルでの仮住まいや高温多湿な気候、のどかな山の家から都会への転居にも順応しました。

「アメリカでは毎週、山歩きに連れ出していたのですが、今は人間が新しい生活に慣れることで手いっぱいです。まだ幸子を連れて、楽しい場所へ出かけることができていません。年末までに、幸子を連れて出かける余裕を持てるようにすることが、私たち夫婦の目標です」

かつて人との触れ合いに慎重だった幸子ちゃんが、今では自分から送るようになった小さな合図。その思いを受け止めるたび、家族だけの会話がまたひとつ重なっていきます。

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