「保護はします。ただ、医療費などのご協力をお願いできませんか?」
そう伝えた保護団体の代表に返ってきたのは、「それなら、そのままにしといてください」という一言でした。
この出来事をInstagramで伝えたのは、保護団体「小さな命を守る会 hug」(@hug_protectlife_)。道路の真ん中で衰弱していた猫「みたらしちゃん」を保護したものの、わずか4日後に看取った出来事をつづった投稿には、多くの反響が寄せられました。
投稿者で代表の三宅久美さんに、みたらしちゃんとの4日間や、保護活動への思いを聞きました。
「大丈夫だよ。一緒に帰ろうね」 か細い「ニャッ」が忘れられない
7月7日の昼頃、道路の真ん中でぐったりとうずくまっていた1匹の長毛猫。三宅さんは、この猫に「みたらしちゃん」と名前を付けました。正確な年齢は分かりません。首輪をしていたことから、かつては飼い猫だった可能性があるそうですが、その経緯は分かっていません。
動物病院では、重度の口内炎の治療のため過去にすべての歯を抜歯していた可能性が高いと説明を受けました。歯が一本もなかったため年齢は特定できず、「おそらく中高齢ではないか」と診断されたといいます。性別も、一刻も早い治療を優先したため確認できませんでした。
保護当時のみたらしちゃんは、散歩中の犬が近づいても逃げられないほど衰弱していました。
「そっと近づき、『大丈夫だよ。お家に帰ろうね』と声を掛けると、小さな声で『ニャッ』と返事をしてくれました。その一声は『早く助けて…』と必死に助けを求めているように聞こえ、今でも忘れることができません」
足は泥だらけで、長毛のお腹や足回りには何重にも絡まった毛玉があり、シリンジで水を飲ませようとしても飲み込む力すら残っていなかったそうです。
病院では猫白血病(FeLV)の発症、重度の脱水、厳しい血液検査の結果が判明。獣医師から「この子をどうするつもりですか?」と尋ねられた三宅さんは、迷わず「最期まで看取るつもりです」と答えました。
「助かる可能性が低いことは分かっていました。それでも、この子が最期の時間を安心して過ごせるよう、今できることをすべてしてあげたい。その思いだけでした」
「それなら、そのままにしといてください」 返ってきた言葉に言葉を失う
投稿で大きな反響を呼んだのが、「それなら、そのままにしといてください」という言葉でした。三宅さんによると、保護を依頼した人に「医療費を全額負担してください」と求めたわけではありません。
「できる範囲での医療費負担、もしくはフード代のご協力をお願いできませんか」と伝えたところ、返ってきたのが「お金がいるなら、そのままにしておいてください」という言葉だったといいます。
「その言葉を聞いた時、私たちは本当に悲しくなりました。道路の真ん中で力尽きようとしていたみたらしちゃんを目の前にして、よくそんな言葉が言えたものだと…。あの子は最後の力を振り絞って『ニャッ』と返事をしてくれました。その命に向かって『そのままにしておいてください』と言えるのでしょうか」
三宅さんは、「助けたい」と思って保護したのであれば、保護した時点で終わりではなく、できる範囲でその後も命を支えてほしいと話します。
「保護や治療を代わることはできなくても、医療費の一部やフードをご支援いただくことは、その命を救う大きな力になります。命を助けたいと思って手を差し伸べたのであれば、その後もできる範囲で命を支える責任を、一緒に持っていただけたらと願っています」
抱っこするとゴロゴロ…最後まで生きようとしていた
保護後は、三宅さんとボランティアが力を合わせてみたらしちゃんの世話をしました。まず通常より多めの点滴を受け、汚れた体を優しく拭き、何個もできた毛玉を丁寧に取り除きました。衰弱していたためシャンプーはできず、少しでも楽になるよう汚れた毛をカット。点滴後には、自分の力で立ち上がろうとする姿も見せたといいます。
「キャリーケースに入れようと抱き上げた時は、そのあまりの軽さに驚きました。命の重さはあるはずなのに、体は信じられないほど軽く、『どれだけ食べられずにいたのだろう』と胸が締めつけられました」
知らない場所で不安だったはずのみたらしちゃんは、ボランティアの膝の上で抱っこされると、小さく喉をゴロゴロと鳴らしました。「安心してくれたのかな」と涙がこぼれたそうです。
ボランティアがそばへ行くたび、みたらしちゃんはゆっくり頭を持ち上げ、小さな声で鳴いてくれました。
「その一つひとつの仕草が『ありがとう』と言ってくれているように感じていました」
最後まで食べ物を口にすることはできず、目を閉じることさえ難しいほど苦しそうだったそうですが、「それでも最後まで一生懸命、生きようとしていました」と三宅さんは振り返ります。
そして7月11日午後5時頃、みたらしちゃんは静かに息を引き取りました。
「猫を責める社会ではなく、人が命と責任について考える社会に」
投稿には、「みたらしちゃんを保護してくれてありがとう」というコメントが数多く寄せられました。
「保護依頼者から受けた言葉があまりにも悲しいものだっただけに、皆さまの温かいコメントを見て『優しい人はこんなにもたくさんいるんだ』と心から安心しました」
活動への支援も多く寄せられたといいます。
「小さな命を守る会 hug」は約10人のボランティアで活動し、主にTNR(野良猫を捕獲し、不妊・去勢手術後に元の場所へ戻し、その後も地域で見守る活動)を行っています。
一方で、活動中には「餌をやるから野良猫が増える」「そんなに猫が好きなら連れて帰れ」といった心ない言葉や、外猫のために置いた水皿を投げられることもあるそうです。
それでも三宅さんは、こう訴えます。
「不幸な猫を増やしたのも人間、傷ついた猫を助けられるのも人間です。本当に向き合うべきなのは猫ではなく、人間の意識ではないでしょうか。動物は自分では生き方を選べません。その命を守ることも、傷つけることも、人間の行動一つで変わってしまいます。だからこそ私たちは、猫を責める社会ではなく、人が命と責任について考えられる社会になってほしいと心から願っています」
たった4日間だったみたらしちゃんとの時間。しかし、その命は保護団体だけでなく、多くの人に「命の重さ」と「自分にできること」を問いかけています。