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「近くに福祉避難所があるから安心」は本当か? 大切なのは「どこへ」だけでなく「いつ、誰が、どうやって」 高齢の親を守る個別避難計画【社会福祉士が解説】

もくもくライターズ もくもくライターズ

分譲マンションに住む40代女性の富永ともえさん(仮名)には、近所の一軒家で一人暮らしをする70代後半の母親がいます。母は要介護1で、軽度の認知症があり、足腰の衰えも気になり始めていました。

富永さんは実家のハザードマップを確認した際、近くに「福祉避難所」があることを知りました。「いざとなったら、そこへ避難すれば専門的な支援を受けられる」。そう考え、どこか安心していたといいます。

しかし、豪雨災害では高齢者が犠牲になるケースが少なくありません。2020年7月豪雨では犠牲者の8割以上が65歳以上だったとされ、2019年の台風でも、避難せず自宅に残ったまま亡くなった人の多くが高齢者でした。

「激しい雨の中、足の悪い母を連れて、本当に福祉避難所まで行けるのだろうか。そもそも、災害時にそのまま受け入れてもらえるのだろうか」

近くに福祉避難所があると知っていても、それだけで安全に避難できるとはかぎりません。大切なのは、「どこに避難するか」だけでなく、「いつ、誰が、どうやって避難するか」まで事前に考えておくことです。高齢の親を災害から守るために必要な個別避難計画の考え方と、今からできる備えについて見ていきます。

福祉避難所と個別避難計画を正しく理解する

富永さんは、母の担当ケアマネジャーに相談したところ、「福祉避難所」と「個別避難計画」について、改めて説明を受けました。

◆福祉避難所とは?

福祉避難所とは、高齢者や障害者など、一般の避難所では生活に支障をきたす人のために、バリアフリー対応や専門的な支援が受けられる避難所のことです。自治体によって運用は異なりますが、災害発生直後から受け入れを行う「指定福祉避難所」と、一般避難所から移動する「二次避難所」の2種類を設定している自治体も多くあります。

また、福祉避難所は収容人数に制限があり、事前に登録が必要な自治体もあります。「近くに福祉避難所があるから安心」という考えだけでは、いざというときに利用できない可能性があるのです。

◆個別避難計画とは?

個別避難計画とは、高齢者や障害者など、災害時に自力での避難が難しい人のために、一人ひとりの状況に合わせて作成する避難の計画です。内閣府も作成を推奨するだけでなく、2021年の災害対策基本法改正により、市町村が作成に取り組むべき事項とされました。「誰が」「いつ」「どこに」「どうやって」避難するかを、本人・家族・ケアマネジャー・地域の支援者などが一緒に考えて決めます。

「福祉避難所があるから大丈夫」と思い込んでいた富永さん。個別避難計画があれば、災害時にあわてることなく安全に避難できるかもしれないと考え、ケアマネジャーと一緒に、母の心身の状態に合わせた個別避難計画を作り始めました。

専門家と実践「個別避難計画」を形にするポイント

富永さんはさっそく、母の担当ケアマネジャーの協力を得て、内閣府も作成を推奨している「個別避難計画」を一緒に作り始めました。専門家のアドバイスを受けながら、母の心身の状態に合わせてまとめた、命をつなぐための5つのポイントです。

◇避難先:福祉避難所「以外」の選択肢を見つける

ケアマネジャーから説明のあったとおり、福祉避難所は最初からすぐに開くわけではなく、一般避難所から移る「二次避難所」となっている自治体が多いため、過信は禁物です。

富永さんは福祉避難所だけに頼るのをやめ、ハザードマップ上のリスクが低く、母を連れてくることが比較的容易な富永さん自身の住むマンションを第一候補に設定。階数も2階なので、もしエレベーターが止まってしまっても、なんとか自力で介助ができると考えました。

さらに、親戚宅や近隣の民間ホテルなど、状況に応じて逃げ込める複数の選択肢を、事前にリストアップしました。実際にホテルへ問い合わせを行い、予約方法の確認と合わせて、バリアフリー対応が可能か、足腰に不安のある母でも泊まれる部屋があるかを確認しました。

◇支援者:「私一人で抱えない」体制づくり

もし災害が起きたとき、富永さんが仕事中で実家へすぐに駆けつけられない万が一の事態も想定しなければなりません。そこで、母本人の了承を得て、必要な範囲の情報を実家のお隣さんや地元の自主防災組織のメンバーに伝えることにしました。「母は足が悪く、避難に手助けが必要であること」を共有し、いざというときは近所から声をかけてもらえるよう、地域全体で支え合う「共助」の相談をしました。

◇移動手段:避難のリアルなシミュレーション

激しい雨の中での移動は想像以上に過酷です。水害時の車避難は道路の冠水や渋滞に巻き込まれて立ち往生するリスクが高いため、基本は「早めの徒歩避難」と指導されました。富永さんは「警戒レベル3(高齢者等避難)が出た段階で、明るいうちに母を富永さんのマンションへ避難させる」という具体的なタイミングを決めました。

◇持ち出し品:一般避難所にはない「いつものケア用品」

避難所に福祉物資や救援物資が届くまでには、数日間のタイムラグが発生します。特に高齢者向けのケア用品は、すぐには手に入りづらいことがあります。認知症の母が慣れない環境でパニックにならないよう、お気に入りのラジオや、常備薬とお薬手帳のコピー、使い慣れた大人用オムツなど、まずは一晩を越せるだけの荷物を緊急持ち出し用バッグにまとめ、母の目につきやすく持ち出しやすい玄関先の棚の上に備えました。

それとは別に、3日~1週間分のおむつや日用品を備蓄し、いざというときに持ち出せるストックを確保しました。

◇相談先:困ったときの連絡先を1枚に

困ったときに一人で抱え込まないよう、ケアマネジャー、地域包括支援センター、自治体の福祉担当課の電話番号を1枚の紙に大きく書き出しました。これを実家の目立つ場所に貼るだけでなく、富永さん自身のスマホにもすぐに発信できるよう登録を済ませ、いざというときの連絡先がすぐに確認できるようにしました。

避難所の場所を知っているだけでは不十分、避難準備を見直して

「個別避難計画をケアマネさんと作ったことで、今までの避難準備では不十分なのだと気づきました。災害が起こる前に気づけてよかったです」

富永さんは、そのように語りました。

「近くの避難所の場所を知っているから大丈夫」という安心は、いざ大雨が始まった瞬間に崩れてしまうかもしれません。激しい豪雨の中、足腰の弱い高齢者を連れて安全に移動するのは想像以上に困難だからです。

福祉避難所は、自治体によって運用が異なります。また、個別避難計画もケアマネジャーだけでなく、地域の協力者や家族、そしてもちろん本人の協力のもとに作成することが欠かせません。何よりも、介護者である家族が情報収集し、さまざまな機関・団体・サービスに出向いたり連絡調整したりといった、「人と人をつなぐ」しっかりとした下準備が必要です。

豪雨災害の教訓を風化させないために、まずはケアマネジャーの自宅訪問時や自治体の窓口で「災害時の避難について不安がある」と一言、相談してみませんか?その一歩が、大切な家族の命を守る確かな計画へとつながります。

【出典】
内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月)」https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/r3_guideline.html

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

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