実家を片付けている際に見つかった、自分では着る機会のない母親の着物。それを日常着として活用できるよう、長袖シャツへとリメイクする試みが注目を集めています。
着物リメイクを手がけたのは、浴衣帯などで知られる創業90年の小杉織物です。同社の工場長が「母親が元気なうちに、自分がこの着物を着ている姿を見せてあげたい」と、実家に眠っていた2着の着物を持ち込んだことがきっかけでした。古い生地ならではのシミを避けながら、裁断や縫製を行う職人の技術によって、着物の風合いを残した2着のシャツが完成。そのビフォーアフターを紹介したInstagramの動画には、技術の高さと仕上がりの美しさに対する多くの反響が寄せられています。
投稿したのは、創業90年で着物帯製造で日本No.1のシェアを誇る、小杉織物(@kosugiorimono_official)さんです。今回のリメイクは、小杉織物で工場長として働く男性が、自社で実施している着物リメイクの動画を見たことから始まりました。
持ち込まれたのは、鮮やかな青や赤の模様が印象的な1着と、淡い色合いに波のような柄が入った1着の計2着です。いずれも工場長の母親が大切に保管していたものでしたが、家族のなかに着付けができる人がおらず、タンスに眠ったままになっていたといいます。そこで、普段から愛用できるシャツに仕立て直すことで、日常生活の中で着用し、母親にもその姿を見せようと考えました。
着物の仕立て直しには、現代の衣服の縫製とは異なる専門的な工程が必要とされます。古い着物は経年による劣化や汚れがあるため、まずは生地を傷めないよう丁寧に水洗いを行い、アイロンで1枚ずつしわを伸ばして生地を整えます。最も根気を要するのが裁断の工程です。着物の生地に点在する古いシミの場所を的確に避けながら、シャツの各パーツ(身頃や袖、襟など)に使えるきれいな部分を見極めて切り出さなければなりません。生地の幅にも制限があるため、柄の配置をどのように見せるかも含め、職人の細やかな判断と技術が求められます。
こうした工程を経て完成した長袖シャツは、それぞれ異なる表情を持つ日常着に生まれ変わりました。淡い波柄の着物は、柔らかな色合いを引き立てた上品な1着に仕上がり、もう一方の青い柄の着物は、背中や袖に大胆な和柄を配置したデザイン性の高いシャツになりました。
完成したシャツを試着した工場長は、鏡の前で仕上がりを確認し、「これ、かっこいいっすわ!」と満面の笑み。現場は大きな歓声と明るい空気に包まれたといいます。
動画を見た人からは、「元が着物とは思えないほど自然なデザインの服になっている」「思い出の品がこうして形を変えて受け継がれるのは素晴らしい」といった感想が寄せられています。
「工場長の喜ぶ姿を見て、作って良かったなと心から思いました」と語る、小杉織物の担当者。今回の挑戦をきっかけに、さらにリメイクの技術や対応できる幅が広がったと、確かな手応えを感じているといいます。
「タンスに眠っていた思い出の着物が、もう一度日の目を浴びて、誰かのお気に入りになる。そして、実際に着た人の個性を引き立てられたときが一番のやりがいです」