パートで働きながら2人の子どもを育てる40代のAさんは、夏休みに入ってからスマートフォン(以下、スマホ)を手放さない子どもたちが少し気になっていました。しかし「どうせゲームでもしているんだろう」と思い、何をしているのか詳しく調べることはしませんでした。
そして新学期が始まったある日、ふとクレジットカードの明細を確認したAさんは目を疑います。身に覚えのない決済が何件も並んでおり、合計すると10万円を超えていたのです。青ざめたAさんが子どもたちに問いただすと、14歳の長女が「ゲームのガチャを引いていた」とあっさり認めました。
子どもたちが勝手にスマホでゲームに課金していたことを知り、Aさんは急いでゲーム会社に「子どもがやったことなんだから返金してもらえるはず」と連絡します。しかしゲーム会社からは「ご返金に対応できない場合もございます」というものでした。
Aさんは子どもが勝手に課金した10万円を返金してもらうことはできるのでしょうか。弁護士の齊田貴士さんに話を聞きました。
「子どもがやったから取り消せる」は思い込み
ー未成年者が親に黙ってゲームに課金した場合、返金してもらうことは可能ですか?
未成年者が親の同意なく課金した場合、民法5条の「未成年者取消権」を根拠に返金を求めることが可能です。ただし、必ず認められるわけではありません。
返金できるかどうかの判断で重要になるのが、「詐術」を使ったかどうかです。詐術とは、相手をだます行為のことです。未成年者が詐術を使ったかどうかは、個別の状況を総合的に見て判断されます。
未成年であることを黙っていただけでも、ほかの言動と相まって相手に「成人だ」と誤解させたり、その誤解を強めたりした場合には、詐術にあたるとされています。
ー親のアカウントや決済情報を使っていた場合でも、返金してもらえますか?
未成年者が親名義のアカウントやクレジットカードを使用して課金していた場合、返金を受けられない可能性が高いです。ゲーム会社側が「アカウントの持ち主(成人のAさん)が利用したと誤解させる詐術があった」と主張すれば、未成年者取消権を認められない可能性があるためです。
ただ、こうした状況でも、課金直後に保護者が気づいてすぐに申し出れば、ゲーム会社側も事情を理解して返金に応じてくれるかもしれません。一方、課金から時間が経ってしまった場合や、課金して入手したアイテムをすでに使い切っている場合、返金してもらえない可能性が高まります。
それでも、反省文など複数の書類を提出することで、返金してもらえたケースもあります。課金トラブルで困った時は、消費生活センターや交渉のプロである弁護士への相談も検討することをおすすめします。
ー子どもの課金トラブルを事前に防ぐために、保護者ができることはありますか?
もっとも効果的なのは、クレジットカード情報をアプリや端末に登録しないことです。また、iPhoneの「スクリーンタイム」やGoogleの無料アプリ「ファミリー リンク」といったペアレンタルコントロール機能を使用し、課金に保護者の承認が必要になるよう設定する方法も有効です。
さらに、クレジットカードの利用明細やゲームの決済通知メールを定期的に確認しておくと、トラブルが大きくなる前に子どもの課金に気づけます。他にも、子どもがどのようなゲームで遊んでいるかを把握し、ゲームへの課金には親の承諾が必要であることを家族で話し合っておくことも大切です。
家庭内での話し合いだけではトラブルの再発防止が難しい場合は、子ども・若者総合相談センターや法務少年支援センターなどの公的機関への相談も選択肢のひとつです。
◆齊田貴士(さいだ・たかし) 弁護士
神戸大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。