営業職のAさんは、猛暑のなか外回りの仕事をして毎日大量の汗をかいています。熱中症対策のため、自動販売機でスポーツドリンクや炭酸飲料を買ってこまめに水分を摂り、1日に2リットル近くジュースを飲むことも珍しくありませんでした。
そんなある日、Aさんは異様な喉の渇きと強い疲労感に襲われます。「もっと水分をとらないと倒れてしまう」と感じたAさんは、さらにスポーツドリンクをがぶ飲みしました。しかし体調は良くならず、ついには激しい吐き気とだるさで動けなくなり救急車で運ばれました。
診断の結果は『ソフトドリンクケトーシス』(ペットボトル症候群)で、医師の話では命の危険があったといいます。なぜ水分を十分に補充していたにもかかわらず、Aさんはこのような事態を引き起こしてしまったのでしょうか。また安全に暑さを乗り切るためには、どうするべきだったのでしょうか。
新宿にある藤保クリニックの院長で、糖尿病専門医でもある飯島康弘さんに話を聞きました。
普段の生活でスポーツドリンクが必要な人はほとんどいない
―『ソフトドリンクケトーシス(ペットボトル症候群)』とはどのような状態でしょうか?また、発症前にはどのような症状が起きますか
ソフトドリンクケトーシスとは、糖分の多い飲み物を大量に飲み続けることで起こる、急に起きる高血糖状態です。
甘い飲料で血糖が上がると、体は余分な糖を尿で出そうとして脱水が進み、喉が渇いてまた飲む…この悪循環で血糖がどんどん上昇します。やがてインスリンが効かなくなると、脂肪が分解されて酸性の「ケトン体」が血液にあふれ、放置すれば意識障害に至ることもあります。実際、強いだるさと意識もうろうの状態で救急搬送され、簡易測定器では血糖値が振り切れている、という方が少なくありません。
前ぶれは、いくら飲んでも取れない異常な喉の渇きと、全身のだるさ、体重減少。夏バテと思って見過ごすうちに重症化する点が、この病気のいちばん怖いところです。
―このソフトドリンクケトーシスは、どういった人がなりやすいですか?
私が現場で感じるのは、「夏はスポーツドリンクで健康に」という少し古い情報のまま、水代わりに何本も飲み続けている中高年の多さです。加齢で喉の渇きを感じにくいうえ糖代謝も落ちているため、なおさら血糖上昇に傾きやすくなります。
また、この症状は糖尿病と診断された方に見られる症状です。そのため、自分が糖尿病だと気づいていない方や糖尿病「予備群」の方が、この状態で救急搬送されて初めてご自身の状態を知るということも実際によくあります。
「自分は大丈夫」と思っている人ほど危ないかもしれません。部活動で清涼飲料水を飲みすぎる10代の例もあり、世代を問わず油断はできませんので注意を。
―熱中症を防ぎつつ、ソフトドリンクケトーシスを避ける水分補給方法を教えてください
まず、ふだんの生活でスポーツドリンクが必要な人はほとんどいません。本当に必要なのは、激しい運動で糖分・塩分・水分を一気に失うような場面だけです。屋内で少し汗ばむ程度なら、水やお茶で十分です。
500mLのスポーツドリンクには角砂糖7〜10個分もの糖が溶けています。糖分が不足しているのではなく、むしろ水分そのものが足りていない方が目立ちます。とくに高齢の方は喉の渇きを感じにくく、1日1L未満という方も珍しくありません。これでは熱中症のリスクも高まります。
食事とは別に1〜1.5Lを、こまめに水やお茶でとってください。ぐったりするほどの脱水を感じるときは、OS-1などの経口補水液が正解です。
―Aさんの症例以外でも、夏場の血糖値で気をつけるべきことがあれば教えてください
盲点になりやすいのが、アイスクリームと果物です。どちらも吸収の速い糖を多く含み、猛暑で冷たい甘味につい手が伸びる夏は、自分でも気づかないうちに糖の摂取量がふくらみます。実際、果物の缶詰やアイスの食べすぎでも、飲み物と同じケトーシスが起こると報告されています。「果物は水分補給」と山盛り食べるのは避け、量を決めて楽しんでください。
もう1つ気をつけたいのが、ビールや酎ハイ、甘いカクテルなどの糖質の多いお酒です。アルコールには利尿作用があり、飲むほどに脱水へ追い打ちをかけます。夏は熱中症ばかり気にされますが、その裏で血糖はこっそり乱れています。冷たくて甘いものは、夏こそ量に気をつけてください。
◆飯島康弘(いいじま・やすひろ) 医師/糖尿病専門医・指導医、内分泌代謝科専門医、認定内科医
藤保クリニック(新宿)院長。東京医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員研究員。肥満症専門外来も担当。オンラインで「新宿・血糖オタクの学校(メディノト)」を運営し、糖尿病の最新知見を暮らしの行動に翻訳する発信を続けている。
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