京都市伏見区下鳥羽広長町の蘇生会総合病院が2025年10月から行った救急車購入のためのクラウドファンディング(CF)が、目標金額1000万円を大きく超える約1370万円を集めて終了した。138人の支援者が集い、病院を長年利用してきた地域住民や近隣クリニック、院内スタッフまでが参加した今回のCF。その背景には、70年余にわたる地域医療への積み重ねがあった。
伏見で70年超親しまれた病院
蘇生会総合病院は1952(昭和27)年、伏見区内に「蘇病院」として開院した。以来、病院・老人保健施設・在宅支援事業所を一体的に運営する「ケアミックス型」の医療機関として地域に根付いてきた。病院の許可病床数は290床と中規模だが、二次救急指定病院として近年は救急・ER室をリニューアルするなど、救急医療に力を入れている。
同院は多くの病院がCFに取り組んでいることを知り、初めて企画した。「寄付をいただくなら、地域に直接還元できるものでなければ」と考え、救急車の新規購入という答えに行き着いた。
病院の救急車が活躍する場とは?
一般的に「救急車=消防署」というイメージが強い。消防の救急車は主に緊急現場への出動が役割だが、病院の救急車は目的が異なる。CFを担当した土師誠二副院長によると「急病でない人の病院間搬送や施設間搬送を行うのが、病院が持つ救急車の役割です」という。入院患者を大学病院へ転院させたり、近隣の高齢者施設から移送したりする業務を担うが、この時消防の救急車を使うことはできないため、病院が自前の車両で対応する。
蘇生会では現在、年間10~20件程度の運用だが、現有救急車の老朽化のため、新規購入が必要になったという。導入から約20年が経過し、車体にはさびが目立つだけでなく、医療機器の搭載も難しく、搬送中に何かあった場合に適切な処置を行うのが難しい状態だ。救急救命科の医師らから「このままでは患者搬送のリスクが高い」との声が上がっていた。
「このまま大丈夫なのかと・・・」
今回のCFは、第一目標を1000万円として、昨年10月20日に始まった。初めの3週間は、思うように支援が集まらなかったという。「このまま大丈夫なのかと不安になった」と土師副院長は振り返る。
院内での告知や、近くの伏見大手筋商店街でのポスター掲示、コミュニティーFM局での告知などで周知を図った。しかし後半に入ると支援額が急加速。目標額を達成したのは12月4日ごろ、開始から約6週間後のことだ。達成後も支援は続き、昨年12月18日の終了時点で約1370万円に達した。院内に設置した募金箱にも、毎日のように患者が寄付を入れてくれたという。
病院が驚いたのは達成額だけではない。「職員には寄付を求めていなかったのに、自分の働く病院のためにと自発的に協力してくれた」「個人で数十万円、中には100万円単位の寄付をしてくださった方もいた」という。支援者の内訳は、地域住民・患者が大半を占め、近隣のクリニックや施設なども名を連ねた。
病院に寄せられた思い
CFサイトにも、病院への思いをつづった声が数多く寄せられた。
「緑内障の治療でいつもお世話になっています。頑張ってください!」
「蘇生会総合病院は伏見区になくてはならない病院です。プロジェクトの成功を心からお祈りします」
「救急車が地域の患者の迅速な治療に役立つことを願っています」
土師副院長は「中規模の病院なのに、大きな病院と同じような目標額を達成できたということは、それだけ地域に愛されているとしか考えられない」と語る。同病院の病床数は周辺の大規模病院の約半分。そんな中で1000万円を達成できたことに、「70年間積み重ねてきた地域貢献の成果が伝わったのかな」と感じているという。
CF企画段階では新たな救急車の価格を約1500万円と見積もっていたが、近年の物価高騰で2000万円近くまで上昇しているという。追加支援なども使い、2026年内の購入・運用開始を目指し、納車後は寄付者へのお披露目も予定している。将来的には開業医や訪問診療先などからの依頼を受け、医師や看護師が直接患者のもとへ出向く体制も検討する。活動エリアは伏見区を中心に長岡京市方面なども視野に入れる。
消防の負担、減らすことも
長澤史朗院長は「京都市内は高齢化率が高く、独居の人も多い。具合が悪くなっても自力で病院に来られず、タクシー代わりに消防の救急車を使うしか手段がない人もいるのではないか。そういう時に、開業医の要請で病院の救急車が搬送することが可能になれば、消防の負担を減らし、全体の救急体制をサポートできる。CFを機に、医療にアクセスできるような環境づくりを少しでも進めていきたい」と、今後の地域医療への意気込みを語る。
新しい救急車は、地域の信頼が形になった1台になりそうだ。