40代専業主婦のAさんは、小学2年生の息子の運動会を観に行きます。そこでは自身の息子が頑張る姿だけでなく同世代の子どもたちが一生懸命に走る姿が観られ、とても有意義なものでした。
その後、夕食時に夫とともに息子の運動会での頑張りを話していると、「へ~こんな感じだったんだ!」と夫がスマホを見ながら言います。夫に息子の写真をまだ渡していなかったため、不思議に思ったAさんは「どこかに画像があがってるの?」と夫に聞くと「SNSにあがってるよ」と返答がきました。
夫にスマホを見せてもらうと、同じクラスの保護者がSNSに写真を投稿していたようです。「今日の運動会、最高だったね!」という言葉とともに並ぶ写真には、わが子も小さく映り込んでいました。
画面を見ながらAさんは「SNSでは息子の顔を公開しないようにしていたのに…」と不満を感じました。しかし同級生の親に指摘をすることで仲が険悪になってしまうのも避けたいと考えます。
このように、他の子どもとともに自分の子どもの顔が写り込んでしまった写真がSNSに投稿された場合、たとえ小さな映り込みでも問題視するべきなのでしょうか。アディーレ法律事務所の島田さくら弁護士に話を聞きました。
「載せないで」と言えない…学校行事の写真とSNSとの距離感
ー保護者が他の子どもが写り込んだ写真をSNSに投稿した場合、どんな法律トラブルが起こり得るのでしょうか?
他の子どもの顔や姿が写っている写真を無断でSNSに載せると、肖像権を侵害する可能性があります。軽い気持ちで投稿しても、保護者同士のトラブルに発展し、削除を求められたり、損害賠償を請求されたりすることもあります。
特に、子どもの顔や名前、園名、位置情報などがわかる投稿は危険です。誘拐犯が「〇〇ちゃんだよね?」などと声をかけてきたり、DV配偶者から身を隠して暮らしている親子が発見されてしまったりするなど、別の事件のきっかけにもなりかねません。
ー「後ろ姿だけ小さく写っている」など、顔がはっきり見えない場合でも、問題になるケースはありますか?
顔が見えない後ろ姿や、遠くに小さく写っているだけなら、問題になる可能性は低いです。ただし、服や持ち物、背景、投稿文などで特定できる場合もあります。
今は、スマホの機能やアプリで簡単に加工できるので、保護者の許可を取っていない写真を載せるのであれば、モザイクやスタンプで加工し、公開範囲を限定するなど、投稿前にひと工夫することが大切です。
ー自分の子どもの顔が写っている写真をSNSで見つけた場合、削除してもらうにはどうしたらいいでしょうか?
まずは、投稿者に直接連絡し、事情を説明したうえで削除をお願いすることをお勧めします。投稿者としては、軽い気持ちで写真を投稿していることも多く、保護者から指摘を受ければ、すぐに削除に応じてくれるケースもよくあります。
今後の人間関係が気になる場合、最初から「肖像権」や「削除を要求します」などの強い言葉を使うのは避けましょう。
「物騒な世の中ですし、これまで子どもの顔はネットに載せないようにしたいので、写真を削除していただくか、スタンプやモザイクで隠していただけませんか?」といった、相手に配慮した丁寧なメッセージを送るほうが、スムーズに対応してもらえるのではないでしょうか。
投稿者と連絡が取れない場合や、削除に応じてもらえない場合には、SNSの運営会社の窓口に連絡し、権利侵害を理由として削除申請をおこなう方法があります。それでも対応が得られないときには、弁護士を通じて正式に削除を求めることも検討してみてください。
ー実際にSNSに公開された子どもの顔映り込みでトラブルになったケースはありますか?
裁判になる前の交渉段階で削除に応じてもらえるケースも多く、実害が生じない場合もあるため、実際に裁判に発展するケースは多くありません。
保護者同士のトラブルを避けるため、学校側は、撮影の可否だけでなく、SNS投稿の可否や範囲についても事前に決めておいたほうがよいでしょう。
ただ、SNSもたくさんの種類があり、個別の公開範囲や掲載方法等について細かく定めるのは難しいですし、投稿された写真を見た人がリポストやシェアなどの機能を使って投稿を拡散してしまう可能性もあります。
SNS投稿は一律禁止にし、「家族で楽しむ範囲のみOK」とするのが簡単です。年度初めに同意書を取り、行事ごとに注意事項を再度伝えると、うっかりトラブルを防げます。
ー写真販売サービスの普及で、第三者による保存・流出リスクも指摘されています。学校や保護者が知っておくべき注意点はありますか?
学校は、写真販売サービスの業者を選ぶ際、暗号化、アクセス制御、再委託の有無、情報漏えい時の報告義務などを確認し、しっかりとしたセキュリティ体制の業者を選ぶことが必要です。
保護者は、共有リンクを他人に送らない、有効期限を守るなど、情報管理に気をつけることが大切です。便利なサービスほど、ルールをしっかり決めて使うことが安全につながります。
◆アディーレ法律事務所 島田さくら(しまだ・さくら) 弁護士(東京弁護士会所属)
退職代行、不当解雇、パワハラなどの労働問題全般に精通。在日ASEAN加盟国大使館の領事担当官に対し、民間の法律事務所初となる労働法講演を行った実績を持つ。TVやラジオ、雑誌などメディアの出演歴も長く、幅広い分野への対応力にも定評がある。
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