障害があっても、自分のできることを精一杯がんばる猫さんが埼玉県草加市にいます。ヤンヤンくん(2歳半)です。彼は「ハピネスねこ譲渡会」の代表の海老塚貴子さんの家で暮らしています。
ヤンヤンくんの障害
2023年10月、ヤンヤンくんは43匹の多頭飼育崩壊の現場から保護されました。1匹だけ体が小さく、生後半年で体重は1.2キロほどしかありません。それに、真っ直ぐ歩くこともできませんし、記憶力もほとんどありません。獣医師によると先天性の脳障害なのだそう。
とても手のかかるヤンヤンくんを、海老塚さんの長男・Rくん(17歳)は大切に育てました。トイレが覚えられないなら覚えるまで付き合いますし、よろけても怪我をしないように部屋の中からいらないものは片づける。
ヤンヤンくんがトイレの概念を理解できたら、今度は使いやすいトイレを見つけるために様々な形状のトイレを買ってきます。Rくんのお小遣いのほとんどは、ヤンヤンくんたち猫のために使われるのですって。
献身的にRくんがお世話をしてくれますから、ヤンヤンくんはRくんをお父さんのように思っているよう。脳の手術をした後もRくんがいてくれるから、予後がとても良かったんですよ。
取られてしまったお父さん
Rくんのおかげで穏やかに過ごせるようになったヤンヤンくん。べったり甘えていつまでも赤ちゃんのように過ごせると思っていたのに、2024年の5月にそうも言っていられない出来事がありました。
子猫が家にやってきたのです。
子猫のお世話はRくんの得意とするところなので、せっせとお世話を焼きます。推定生後2カ月の「トントン」と名付けられた子猫は、優しいRくんにほっと一安心し、持ち前の天真爛漫さをすぐ発揮し始めました。思い切りはしゃぎますし、ご飯もむしゃむしゃ。何より、ヤンヤンくんの「お父さん」であるRくんを独占します。
ヤンヤンくんの心は乱れました。「ぼくのおとうさんなのに」と。嫌な気持ちを表現したいのに、ヤンヤンくんはそれができません。ずっともやもやしっぱなし。
そんなヤンヤンくんに、Rくんはトントンくんがどうしてお家に来たのかを話してくれました。
用水路に流された子猫
それは5月なのにとても暑い日の朝のこと。草加市を流れる大きな用水路で子猫が落ちそうになっていると、「ハピネスねこ譲渡会」に連絡が入りました。連絡をくれたのは、近くに住む人。これを聞いたスタッフのMさんは、捕獲器とキャリーバッグを手にすぐ用水路に飛んでいきました。到着し見てみると、用水路の端っこでミャーミャー鳴く子猫の姿がありました。おやつでおびき寄せようとしても、鳴くばかりでなかなか動きません。
膠着状態が長く続き、気づけば太陽がジリジリと子猫とMさんを照らします。暑さで朦朧としてくる意識の中、Mさんは子猫に手を伸ばします。途端、子猫はぼちゃんと用水路に落ちてしまいました。前日まで大雨で水量が多い中、どんどん流されていきます。
誰もがこのまま子猫は死んでしまうのだろうと絶望的な気持ちになっている時、用水路へ捨てられていたレジ袋に子猫はしがみつきました。これが用水路の端っこに引っ掛かり、子猫はレジ袋をよじ登って、今度は草むらに逃げ込みました。
「この子、多分捨て猫」
一同ホッとしたものの、まだ子猫は保護できていません。Mさんは根気よく草むらに向かっておやつやご飯を差し出します。1時間以上、向かい合いました。その真摯な思いが子猫に通じたのでしょう。少しだけ顔を見せてくれたのです。
この時をMさんは逃しません。目にもとまらぬ速さでひょいと子猫の体を掴み、キャリーバッグにポンと入れました。子猫はびっくりしますが、後の祭り。キャリーバッグの中で必死にミャーミャー鳴きながら、Mさんの家に連れていかれました。
帰宅したMさんは海老塚さんに保護の連絡をした後、玄関で倒れてしまいました。熱中症です。子猫は娘に託され、タオルで綺麗に拭いてもらいました。この時、子猫はとてもおとなしかったのだそう。まるで人の手の温もりを知っているかのように。
夜になって海老塚さんの家に移動し、Rくんがお世話をすることになったのです。穏やかな子猫の姿を見てRくんは思いました。
「この子、多分捨て猫」
お兄ちゃんに任命
Rくんは生まれた時から、保護猫に囲まれて育ちました。お母さんが保護してくる猫たちを多く見ていますから、野良猫なのか捨て猫なのかは感覚的に分かります。捨て猫が野良猫以上に過酷な運命を辿ることも、よくよく知っています。
だからこそ、助けられた命を大切にしたいと大事にお世話をするのです。
Rくんは、それをヤンヤンくんに話しました。そして、ヤンヤンくんにお願いします。トントンくんのお兄ちゃんになってほしいと。
役目をもらったヤンヤンくんは、今まで頼るばかりだったRくんに頼ってもらって大喜び!張り切ってトントンくんのお世話を焼きます。といっても、一緒に遊ぶことぐらいしかできません。その遊びも、ついヒートアップしがちでRくんからストップが入ることもしばしば。
それでもトントンくんはヤンヤンくんがいてくれることが嬉しいのか、いつも一緒にいます。一緒にいると、ヤンヤンくんの表情がキリっとするんですよ。トイレの失敗もちょっと少なくなりました。
簡単に通り過ぎる社会になってほしくない
仲の良い2匹を眺めながら、Rくんは言います。
「捨てられて助かる猫はとても少ないです。捨てられた猫のほとんどが、餓えや事故や虐待などで死んでしまいます。動物を捨てることは犯罪だと、もっと知ってもらいたいです。怪我をした猫がいても、簡単に通り過ぎる社会にはなってほしくありません」
Rくんはもっと猫たちの役に立てるよう、勉強も頑張っています。将来は動物病院で働きたいと考えているのだそう。
海老塚さんはそんな息子を頼もしく感じつつも、お小遣いは自分のために使ってほしいなと少し思うのです。
【ハピネス猫譲渡会】
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