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「お母さん、私のことわかる?」息子の顔を忘れた85歳母は他人に笑顔…要介護1から3へ進行、60代男性が語る喪失感と介護者の負担【社会福祉士解説】

もくもくライターズ もくもくライターズ

「母が私の顔を忘れ、知らない人には笑顔を見せる...その瞬間、私は心が折れそうになりました」

そう語るのは、60代男性の萩山さん(仮名)。85歳の母親は、3年前にアルツハイマー型認知症と診断されました。当初は要介護1でしたが、症状の進行とともに要介護度は上がり、現在は要介護3の認定を受けています。最近では、着替えや入浴に全面的な介助が必要になり、トイレの場所もわからなくなることが増えてきました。そして、ついに息子である萩山さんの顔も認識できなくなったのです。

「笑顔で他人に接する母の姿を見るほど、私は心の中で言葉にならない喪失感を抱えてしまうのです」

萩山さんは、顔をうつむけながら、そう話しました。

認知症介護で直面する衝撃と喪失感とは?

誰もが介護という現実に向き合うとき、単なる作業を超えた情緒的な喪失感が押し寄せることがあります。かつて家族として共有していた記憶や関係が、病気によって徐々に変わっていく過程は、言葉では言い表せない痛みや孤独を伴います。この喪失感は、多くの介護者が経験する現実であり、介護者自身が心を病んでしまう原因のひとつにもなっています。

「お母さん、私のことわかる?」と萩山さんが尋ねたとき、返ってきたのは少し困ったような、なんとも言えない笑顔でした。

「息子としての私は、記憶から消えていたのです」

そう萩山さんは語ります。

介護者の精神的負担の現状

介護者の心理的負担は決して小さくありません。2016年の国民生活基礎調査によると、同居の主な介護者のうち68.9%が、日常生活の悩みやストレスを感じていると回答しています。また、2022年の国民生活基礎調査によると、介護が必要となった主な原因として、要介護者全体では認知症が23.6%と最も多くなっています。

介護者がうつや強いストレスを抱える理由は、単に介護作業の重さだけではありません。症状によって関係性が変わっていくことや社会的な孤立感、慢性的な睡眠不足や休息不足など、さまざまな要因が複合的に影響します。

また、うつ状態に陥っている介護者は多数存在すると言われており、介護そのものが心の健康に大きなリスクを及ぼすことがわかっています。介護者は、いつ終わるかわからない介護生活の中で自分自身の時間や感情と向き合う余裕を失い、それが精神的な疲労や抑うつを招くのです。

介護者の心を守る5つの方法

介護負担や精神的ストレスは、支援や取り組み方次第で軽減することができます。介護者自身の心を守るための具体的な方法を5つご紹介します。

①親と病気を分ける|心の距離のバランスを取る

介護を続ける中で、どうしても「親の変化」そのものを否定的に受け止めがちになります。しかし、認知症は病気であり、本来の本人の人格や関係性とは別のものです。「病気としての行動」と「親そのもの」を分けて考えることで、心の負担を減らしやすくなります。これにより、感情的な反応に振り回されず、冷静に介護に向き合う余裕が生まれるのです。

②介護日記をつける|気持ちを客観視する

​介護日記は、ただの記録ではなく、感情の整理にも役立ちます。日々の出来事や母の行動、自分の感じたことを書き出すことで、過去の記憶と感情を客観的に振り返ることができます。「今日はこんなことがあった」「私はこう感じた」と書き出すことで、心の中に抱えていたモヤモヤを可視化し、整理する助けになります。その積み重ねが、ストレスを軽減し、客観的な思考を取り戻す力にもつながります。

③家族会の参加|孤独感を軽減する

一人で介護を抱え込むと、どうしても孤独や不安が増してしまいます。家族や親しい人との話し合いの場を持つことは、とても大切です。家族会では、介護の現状や感じていることを共有することで、理解や協力が得られやすくなります。共通の目標を持つことで、介護者自身の負担を分散でき、孤立感を和らげることができます。また、同じような立場の人と話をするだけでも、心の支えになることがあります。社会的な支援や地域のサポートに繋がるきっかけにもなることがあるようです。

④月1回の休息をとる|自身のリフレッシュ

介護を続ける中で「休む」ということは罪悪感を感じやすいものですが、むしろ休息は介護による長期戦を乗り切るために必要不可欠と言えるでしょう。ショートステイやデイサービスなどを利用して、自分の時間を確保することで、精神的な余裕が生まれます。休息は決して逃げではなく、介護を続けるための「意識的な休息」として取り入れることが重要です。リフレッシュした心は、介護の質にも良い影響を与えるのではないでしょうか。

⑤カウンセリング|専門家の支援を受ける

介護によるストレスや不安は、専門家のサポートが非常に役立つ場合があります。介護に特化した臨床心理士や心理カウンセラーと話すことで、自分一人では気づけない感情や課題に気付くことができます。専門家的な支援を受けることで、介護者自身の心の健康を守る力を高めることができるのです。一部の地方自治体やお住まいの地域の地域包括支援センターでは、介護者向けの無料の相談窓口を設けている場合がありますので、確認することをお勧めします。

一人で抱え込まないために

介護を一人で抱え込んで、心が塞ぎこんでしまうケースは少なくありません。けれども、萩山さんのように自分の心を守るすべを見つけた人は、うまくリフレッシュしたり話を聞いてもらったりしながら、介護とうまく向き合っているようです。

介護は孤独な戦いではありません。周囲や専門職の方々に頼りながら、自分の心を大切にすることは、介護そのものを続けるためにも必要な大切なプロセスなのです。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。 

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