50代のAさんにとって、自宅の南側にある小さな庭は、日々の家事や介護の疲れを癒やす唯一の場所でした。中でも半年前に園芸店で偶然出会い、一目惚れして購入した海外原産の希少なバラは、彼女の生きがいそのものでした。
しかしある日の朝、いつものようにジョウロを片手に庭へ出たところ、バラの鉢が置かれていたはずの場所だけが、ぽっかりと黒い土を見せていたのです。風で倒れたわけでもありません。直径30センチはある重厚なテラコッタ鉢ごと、忽然と姿を消していました。
門扉には鍵がかかっておらず、誰でも侵入できる状態ではありましたが、道路から死角になる庭の奥まで他人が入り込んだ事実に、Aさんは驚きました。近隣を必死に回って尋ね歩きましたが、有力な情報は得られませんでした。
Aさんはこの問題で警察に助けを求めることはできるのでしょうか。また、もし犯人が見つかった場合、法的にどう裁かれるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
被害額の多寡は関係ない
ー「花一輪」「小さな鉢植え」といった少額なものでも、警察に被害届を出して捜査してもらうことは可能ですか?
可能です。被害額の多寡にかかわらず、犯罪は犯罪ですので警察に被害届を提出することができます。
現実的には、被害が軽微な場合、大規模な捜査が行われることは稀かもしれません。しかし、被害届を出しておくことで、近隣のパトロールが強化されたり、別の窃盗事件で犯人が捕まった際に余罪として追及できたりする可能性があります。
「少額だから」と泣き寝入りせず、警察に相談することをお勧めします。
ーもし犯人が特定された場合、盗まれた植物の返還だけでなく、慰謝料などを請求することはできますか?
犯人が特定された場合、民事上の損害賠償請求として、植物の返還や、もし枯れてしまっていた場合はその時価相当額を請求することができます。
慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償)については、原則として「財産的損害(植物の代金など)の賠償によって精神的苦痛も慰謝される」と考えられているため、認められるハードルは高いのが現実です。
ただし、このケースのように住居侵入を伴うものであったり、執拗な嫌がらせ目的であったりと、悪質性が高く精神的被害が甚大であると認められれば、少額ながら慰謝料が認められる可能性もゼロではありません。
ーまた、個人の敷地内や玄関先にある植物・植木鉢を盗む行為は、法的にどのような罪になりますか?
他人の敷地内にある植物や植木鉢を勝手に持ち去る行為は、刑法235条の「窃盗罪」に該当します。法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
また、植物を盗むために門扉を開けて庭に入ったり、マンションのベランダに侵入したりした場合は、刑法130条の「住居侵入罪(または邸宅侵入罪)」も成立する可能性があります。たかが草花と軽く考えられがちですが、これらは立派な犯罪行為です。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。