人に想いを伝えることは、決して『言葉』だけではないようです。漫画家・水谷緑さんの作品『こころのナース夜野さん』は、新人看護師・夜野が精神科病院に勤める物語です。同作の抜粋エピソード「第2話 月光」は、自殺しようとした男性の苦悩が描かれています。同作はInstragramに投稿されると、約2.3万ものいいねを集めました。
ある日夜野が勤める病院に、自殺を図った独身男性・酒木が運ばれてきます。酒木は糖尿病で視力が落ちて退職し、その後引きこもりがちになり自らの腹部を刺したそうです。
それからしばらく経ち、夜野が巡回していると自室に酒木の姿が見当たりません。
酒木を探していると、彼はベンチに座っていました。夜野は酒木の横に座り、死のうとした人の気持ちを思い巡らせます。夜野はなんと声をかければいいか分からず、ただ酒木と一緒に満月を眺めました。
その後酒木は席を立ち、夜野の目を見て「ありがとうございます」と伝えます。夜野はそのことを師長に報告すると、「『沈黙の会話』というのもあるの。一緒にいる、一緒にやる、というだけでもいいのよ」と話しました。
後日、酒木は「家の鍵が閉まっているか確認したい」と一時帰宅を希望したため、夜野も一緒について行くことにします。酒木の自宅はやはり鍵は開けっ放しで、畳には血の跡がありました。
畳を掃除しながら、酒木は「オレなんでこんなことしたんだろ…」と呟きます。夜野はそんな酒木の様子を見て「死のうとしているとき、360度ある視界が3度ぐらいになってる。いつもの自分のまま死ねないとしたら、それは人生がもったいない」と思いました。
1カ月後、酒木は無事に退院し現在は就労支援を受けています。偶然外来で会った酒木は、本来の姿を取り戻しつつあるのでした。
同作に対しSNS上では、「夜野さんが側にいてくれるだけで心が救われたのかな」「思考が『心の病気』に乗っ取られていたのかも」などの議論が交わされています。そこで、作者の水谷緑さんに話を聞きました。
『沈黙の会話』は心の視野が広がり安心感につながる
ー夜野さんの『沈黙の会話』は、酒木さんにどんな気持ちの変化をもたらしたとご想像しますか?
孤独感が減ったのかなと思います。「自分だけがこんなに辛い」と視野がとても狭くなっていた状況から、隣に座ってくれた夜野さんという他者が現れて、酒木さんは視野が広がったと思います。
役に立とうとして無理に話しかけたりはせず、ただ横に座るという患者さんの気分や状態に合わせた丁寧さや遠慮が、自分を人として尊重してくれたという酒木さんの安心感に繋がったのかと思います。
ー同作にて、気に入っている場面やセリフなどがあれば教えてください
2人で月光を見ている場面が気に入っています。言葉はなくても、誰かと関わった、独りではない、と言う感覚を持てることを表せたかなと思っています。「独りではない」という感覚が、精神疾患が回復する過程では重要かと思っています。
―水谷さんは他にはどのような作品を執筆していますか?
猟師に聞いた山の不思議な話を集めた『山人が語る不思議な話 山怪』3巻が12月26日に発売されました。また、精神科病院やクリニックの暴力について描いた『暴力病院』が4月に発売予定です。そのほか家の実話怪談漫画が春から連載開始します。
さらに現在、美容医療や戦争孤児の漫画、児童書などを準備中ですので、お楽しみにしていてください。
<水谷緑さん関連情報>
▽ビッコミ『こころのナース夜野さん』
https://bigcomics.jp/series/118d331d422be
▽ビッコミ『山人が語る不思議な話 山怪朱』
https://bigcomics.jp/series/d378d893a139f
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