Aさんは旧知の友人と、久しぶりに焼肉食べ放題を堪能しました。肉のラインナップに、ついつい手が伸び目移りするままにさまざまな部位を注文します。そして中盤までは順調でしたが、終盤になり胃袋の限界が訪れました。満足感と同時に、網の上と皿に残る数枚の肉を見て、少しの後悔がよぎります。
会計のためレジに向かうと、店員がAさんのテーブルをチェックしに行きました。すると、網の上に残された肉片が店の定める「食べ残し」に該当するというのです。この言葉にAさんは耳を疑いました。食べ放題だからこそ、多少の食べ残しは仕方ないものだと考えていたからです。
しかし店員は、レジ横の目立たない場所に掲示された小さな貼り紙を指さし、「罰金」の支払いを淡々と求めてきました。その罰金額は1000円。納得がいかないAさんは、ルールがあるにしても店側のこの対応に不信感を抱かずにはいられません。
こうした「食べ残し罰金」が法的にどのような扱いになるのか、まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
事前に認識していたかがポイント
ー「食べ残しは罰金」という店のルール(契約)は、法的に有効ですか?
基本的に、店と客の間には「契約」が成立しています。店側が「食べ残しは罰金」というルール(特約)を事前に明確に提示し、客側がそれを認識して入店し食事を始めた場合、そのルールは契約内容の一部として原則として有効となる可能性が高いです。
ただし、そのルールがレジ横の死角など、客が容易に認識できない場所に掲示されていただけであれば、客が同意したとは認められにくく、無効となる余地があります。有効性を主張するためには、店側が入口やメニューなど、誰もが目にする場所に分かりやすく提示している必要があります。
ーもし罰金が「1万円」など、高額だった場合はどうなりますか?
罰金の金額が、食べ残しの量や食べ放題の料金と比較して著しく高額である場合、「消費者契約法」によって無効とされる可能性が高くなります。
この法律は、消費者である客の利益を一方的に害するような不当な条項を無効にすることを定めています。食べ放題料金が3000円であるにもかかわらず、罰金が1万円といったケースは、この法律に照らして不当に高額と判断され、その罰金条項は無効となる可能性が高いです。
ー客として、このような罰金を請求された場合、どのように対応するのが望ましいですか?
請求された罰金のルールが、店内のどこに、どのような大きさで、明確に表示されていたかを冷静に確認し、可能であれば携帯電話などで写真に残し、証拠を確保しましょう。
その上で、罰金の法的根拠、すなわち「明確な掲示がなく、客が事前に同意していない」という契約成立の疑義、または「罰金額が法外に高額で、消費者契約法に違反している可能性」を冷静に指摘し、支払いに応じられない旨を伝えてください。
店側が強硬な態度で支払いを要求し続ける場合でも、その場で安易に支払いに応じるのは避け、後日、最寄りの消費者生活センターや弁護士に相談する意向を伝え、不当な請求に対しては専門家の助言を得て対応することが望ましいです。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。