欧州の都市を模した木のミニチュア作品を手がける工房「ベッキオ・バンビーナ」(岡山県吉備中央町下加茂)。70代の夫婦が協力して町内の間伐材を有効活用、独創的な〝小さな世界〟を生み出しており、人気を集めている。
切り株を岩山に見立て側面の長い階段と三つの塔を囲む市街地が特徴的な「サンマリノ共和国」、木の表面を削り岸壁を表現した世界遺産「マテーラの洞窟(どうくつ)住居」、白壁と淡い青の海が爽やかな港町ナポリ…。イタリアの名勝地をモデルにしたミニチュアが約25平方メートルの室内に所狭しと並ぶ。カラフルな外壁や窓枠など緻密な手仕事に加え、柔らかな造形とぬくもりが愛らしい。
工房は、元ピザ店経営の太田哲朗さん(75)真理子さん(71)夫妻が2022年、自宅の一角を改装しオープン。林業にも携わる哲朗さんが知人から間伐材を譲り受けたのを機に木工細工を独学で始めた。哲朗さんがカットし真理子さんが色付けと装飾を担う。店は次男(43)に任せ1日3時間は机を並べて没頭する。
「木の割れ目や節を生かし、身近な素材でイメージを形にする。工夫するのが楽しい」と真理子さん。マドラーの先端を並べた階段、曲げたワイヤは柵や旗ざお、ボタンをテーブルにと、目を凝らせば2人のアイデアが随所に見えてくる。哲朗さんは「来た人に和んでもらえるのがうれしい」と目を細める。
下地にあるのは本場のピザを求め文化的風土に触れた19年のイタリア旅行での経験だ。工房開設後も旅行雑誌や絵画を参考に「日本との違いを徹底的に観察」して写実的な作品作りに生かしてきた。
一方で空想的な作品にも挑戦している。新作は月と都市が階段でつながる構図のウオールオブジェ。ハロウィーンやクリスマスにちなんだ小物、紙粘土や布を使った人形制作などレパートリーを広げている。
最近は、作品を見た人からワークショップの申し込みも増えてきたという。材料の都合で定番のキットは無いが3時間程度で作れるものを相談して決めるという。2人は「他の人と一緒に物づくりをすると新たな着想が生まれる。自分たちだけの世界を作っていきたい」と話している。