tl_bnr_land

客から「店員のタトゥーが見えて不快!」 仕事熱心なのに、クレームが怖いから……解雇しても大丈夫?【社労士が解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

Aさんが運営するカフェには、腕に小さなタトゥーがある大学生のアルバイトBさんがいます。いつも笑顔で仕事熱心な彼は、普段は制服でタトゥーが見えないよう配慮してくれていました。

しかし猛暑のある日、汗だくになった彼が半袖に着替えて作業した際、それを見た客から「店員の腕に入れ墨が見えて不快だった」と本社にクレームが入ってしまいます。本社からは「お客さまからのクレームは重大だ。早急に対処するように」と、厳しい指示が出されます。

真面目に働くBさんを辞めさせたいとは思いませんが、会社の指示そしてお客さまの感情との板挟みになり、Aさんは頭を抱えました。そこでふとAさんは、かつて大阪市が全職員を対象におこなった「入れ墨調査」の騒動を思い出しました。

公務員でさえ、あれほど個人の身体的特徴が問題視されたのです。このままではアルバイトの「タトゥー」が解雇の理由としてまかり通ってしまう、と絶望的な考えが頭をよぎりました。Aさんはどうすればいいのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

顧客のクレームだけで解雇は行き過ぎ

ー企業が従業員のタトゥーを理由に採用を拒否したり、解雇したりすることは、法的に可能ですか

採用の段階と、雇用後の解雇とでは、法的な考え方が大きく異なります。採用を拒否することについては、企業の「採用の自由」が広く認められているため、タトゥーを理由に不採用としても、直ちに違法となる可能性は低いです。

一方、すでに雇用している従業員をタトゥーのみを理由に解雇することは困難です。解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、権利の濫用として無効になります。タトゥーがあるというだけでは、通常この「客観的に合理的な理由」には当たらないと判断される可能性が高いでしょう。

ー就業規則に「タトゥー禁止」の規定があっても解雇は認められませんか

それだけで解雇が直ちに有効になるわけではありません。まず、その禁止規定自体に企業の事業内容や従業員の業務内容に照らした合理的な理由があるかが問われます。例えば、お客様と直接接する接客業などでは、企業のイメージ維持を理由にタトゥーを隠すよう求める服務規律には一定の合理性が認められやすいでしょう。しかし、顧客と全く接点のない職種でまで一律に禁止することは、業務上の必要性が乏しく、規定自体が無効と判断される可能性もあります。

その上で、仮に規定が合理的だとしても、従業員にタトゥーがあることを知りながら会社が長期間それを問題視せずに勤務させていた場合、それは「黙認していた」と解釈されます。その状況で、後から就業規則を盾に解雇しようとしても、解雇が無効になる可能性が高いです。

いきなり解雇という厳しい処分を下すのではなく、まずはタトゥーを隠すように指導するなど、段階的な対応を踏むのが妥当です。

ー客からのクレームという事実は、解雇の正当な理由になりますか?

クレームがあったという事実だけでは、解雇の正当な理由にはなりません。客観的なルール違反や契約違反の事実があれば別ですが、「不快だった」という主観的な感情だけでは、従業員のルール違反を示すものではないからです。

もし、クレームを理由とした解雇が何でも認められてしまうと、理不尽な要求によって従業員の立場が常に脅かされることになってしまいます。したがって、解雇権の濫用と判断され、無効になるでしょう。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース