Aさんは給料日になるとATMに行ってお金をおろし、1カ月の生活費に使うお金と貯金を封筒で分けて管理しています。ですが、ここ数カ月ATMに備え付けられた封筒がないことに気が付きました。
たまたまタイミングが悪いだけと思っていたある給料日、行列が出来ていたATMに並んでいると、ATM使っている人がガサっと多くの封筒を持っていくところを目撃します。Aさんをはじめ、他の行列に並んでいた人も驚いている様子でした。このように、ATMに常備されている封筒を必要以上に持っていくのは、犯罪にならないのでしょうか。弁護士の齊田貴士さんに話を聞きました。
窃盗罪に該当する可能性がある
―公共の場に置いてあるものを必要以上に持ち帰るのは、犯罪にならないのでしょうか?
公共の場に置いてあるものを必要以上に持ち帰る行為は、銀行(提供側)の意に反して、銀行(提供側)のもの(封筒)を持ち去ることになるため、窃盗罪(刑法235条)に該当する可能性があります。
「大量に持ち帰るのはご遠慮ください」「必要な分だけお取りください」という注意書きがある場合は、言わずもがな、窃盗罪に該当する可能性があります。
他方で、「ご自由にお取りください。」と書いてあった場合、「ご自由に」という文言から枚数に制限はなく、窃盗の故意(盗む認識)は想定できず、窃盗罪は成立しないのではないかとも思えますが、ATMという場に封筒が置かれていることからして、この場合の「ご自由に」は、「ATMの利用において、相当に必要な範囲内で許可なくご利用ください」と解釈するのが社会通念上、合理的解釈と思われます。そのため、仮に「ご自由に」とあった場合でも、必要以上に持ち帰る行為には、窃盗罪が成立する可能性はあると思われます。
実際、スーパーが提供している食品保存用の製氷機の氷を約12キロも持ち帰ろうとした人が現行犯逮捕されたという事例もあります。
―どのような刑罰になるのでしょうか?
十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金になります。窃盗罪で処罰されるかについては、行為の悪質性(例えば、注意や制止を聞かずに続けた)、被害の内容(どれくらい持ち帰ったか、どれくらいの被害が出ているか)など総合的な事情により判断されると思われますが、皆が気持ち良く利用できるよう、配慮をもって常識の範囲内で行動することが大切です。
◆齊田貴士(さいだ・たかし)
神戸大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。