結婚20年目を迎えたAさんは、一人娘が独立し、妻のBさんと二人きりの穏やかな生活が戻ってきたことに安堵していました。その影響からか、最近のBさんは以前よりも身なりに気を遣い友人との外出も増え、生き生きと楽しそうに見えます。
そんなある日、Aさんがいつものように家計のチェックをしていると、貯金が減っていることに気が付きます。何に使っているのか見当がつかないAさんは、Bさんに相談することにしました。するとBさんは気まずそうに「実はセラピーに通ってるの」と答えます。詳しく話を聞くと、どうやら彼女は月に数回、会員制の男性セラピストが接客する店や女性用風俗に通っているようです。
ただBさんはこの行動に浮気の意図はありません。長年夫婦の営みがなく、女性として見られていない寂しさを埋めるために、お金を払って心の渇きを癒す「セラピー」を受けているだけだと主張します。
Aさんの頭は真っ白になり、一人の男としての存在価値を根底から否定されたような、強烈な劣等感を覚えます。この歪んでしまった関係をどうすればいいのか、夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞きました。
夫との関係における深刻な「心の渇き」
ー妻が女性用風俗にハマってしまう背景は、どのようなものでしょうか
妻が女性用風俗にハマってしまう背景には、夫との関係における深刻な「心の渇き」があると考えます。具体的には、夫からひとりの女性として見てもらえない、大切に扱ってもらえないという寂しさが根底にあるのでしょう。
家庭内では得られない「お客様」としての丁寧な扱いや、甘い言葉によって、傷ついた自尊心や承認欲求が一時的に満たされます。
しかし、それはお金で買っている仮初めの関係であり、心のどこかでは虚しさを感じているはずです。彼女が本当に求めているのは、風俗サービスそのものではなく、夫に自分を認めてほしい、もっと自分のことを理解してほしいといったものではないかと考えます。
ー夫側から見て、法的に「不貞行為」として離婚や慰料請求の理由になりますか
お店に通っているという商業活動の範囲内であれば、法的に「不貞行為」と認められるのは難しいでしょう。
ただし、状況によっては話が変わってきます。例えば、お店の従業員と個人的に会うようになり、プライベートな関係に発展した場合や、家計を破綻させるほどの金額を注ぎ込んでいる場合などは、夫婦関係を継続しがたい重大な事由として、離婚や慰謝料請求の理由になり得ます。
ー妻にこの行為をやめてもらうために、夫はどのようにすべきなのでしょうか
夫が力ずくで「やめろ」と言っても、根本的な解決にはなりません。仮にお店通いをやめさせられたとしても、妻の心の渇きが癒えなければ、次はマッチングアプリなど、別の形で寂しさを埋めようとするでしょう。
妻の行動の表面だけを捉えるのではなく、「本当に求めているもの」が何なのかを見極めようとするのが大切です。「僕が君の力になれることはないか?」と、真正面から向き合ってください。
関係修復を目指す上で最も重要な心構えは、夫が妻の行為を「一切責めない」ことです。人は、たとえ自分が悪かったとしても批判されることを嫌います。今後の関係修復を見据えて、妻の心の声に、真摯に耳を傾け続けることをおすすめします。
◆木下雅子(きのした・まさこ)
行政書士、心理カウンセラー 大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、顧客を支えている。