SNSや動画サイトに、飲食店での迷惑行為を撮影した動画を自らアップロードするケースが後を絶ちません。2023年には大手回転寿司チェーンが、店内の湯飲みや醤油さしを舐めまわす動画をSNSに投稿した客の少年を相手取って、約6700万円の損害賠償を求めた訴訟を起こしました。この事件はのちに和解が成立しましたが、類似の事例はその後も後を絶ちません。
仲間内でウケを狙っただけのいたずらのつもりでも、動画が瞬く間に拡散され、「不衛生だ」「営業妨害だ」「気持ち悪くて行けない」とネット上で大炎上してしまえば、飲食店に大きな被害をもたらしかねません。
飲食店での迷惑行為やそのSNS投稿は、どのような法的責任を問われるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞きました。
決して「イタズラ」では済まされない罪の重さ
ー飲食店での迷惑行為はどのような罪に問われる可能性が?
まず店内で暴れたり、大声で騒いだり、店員を脅したりするなど、威力を用いて飲食店の正常な営業を妨害した場合、威力業務妨害罪(刑法234条)に問われます。殴る蹴るといった直接的な暴力だけでなく、食器につばをつけるなどして汚す行為や、人の意思を制圧するような勢いを示す行為も含まれ、法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
人を欺いたり、虚偽の情報を流したりして、飲食店の信用を毀損し、またはその業務を妨害した場合は、偽計業務妨害罪(刑法233条)に問われるでしょう。食器に唾液を付着させるなどの行為がこれに該当し、店舗側が衛生管理のために営業停止や消毒作業を余儀なくされた場合などが考えられます。
店の備品や食器などを壊した場合は、器物損壊罪(刑法261条)に該当するでしょう。法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。また、店の備品などを無断で持ち帰った場合は、窃盗罪(刑法235条)に問われ、法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
これらの刑事罰に加えて、飲食店側から民事上の損害賠償を請求される可能性もあります。損害賠償には、消毒費用や備品の交換費用、営業できなかった期間の逸失利益、そしてSNSでの拡散によるブランドイメージの低下(風評被害)などが含まれ、過去の事例では数千万円もの高額な賠償請求がなされたケースもあります。
ー「軽い気持ちのイタズラだった」という釈明は通りますか
そうした言い分で法的責任を免れることはできません。刑事責任においては、行為が犯罪の構成要件に該当すれば、たとえ「イタズラ」という認識であったとしても、犯罪は成立します。民事上の損害賠償責任においても、加害者の故意または過失によって損害が発生した以上、その責任を負わなければなりません。
軽い気持ちであったかどうかは、量刑を判断する際に考慮される可能性はありますが、責任そのものを免れる理由にはなりません。むしろ、安易な動機で重大な結果を引き起こしたとして、厳しい判断が下される可能性も十分にあります。
ー未成年でも責任は問われますか
刑事責任については、14歳以上の未成年者は刑事責任を問われる可能性があります。14歳未満の場合は、刑事責任は問われませんが、児童相談所への通告や家庭裁判所での審判といった手続きの対象となります。
民事責任については、一般的に12歳程度以上の未成年者には、自らの行為の責任を判断する能力(責任能力)があると判断されることが多く、その場合は本人自身が損害賠償責任を負うことになります。未成年者に支払い能力がない場合は、監督義務者である親権者(両親など)が、監督義務違反があったとして損害賠償責任を負うことになります。
迷惑行為をSNSに投稿する行為は、決して「イタズラ」では済まされません。軽い気持ちで行った行為が、本人だけでなく、その家族の人生をも大きく狂わせてしまう可能性があることを、強く認識してください。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。