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何年一緒に暮らしても法律上は「他人」…同性パートナー、突然死で立ちはだかる壁「どうしたらいいのか」

長澤 芳子 長澤 芳子

長年にわたって同性のパートナーと過ごしていたAさんは、満たされた穏やかな日々を送っていました。リビングには二人の思い出の品が飾られ、週末には一緒に料理をしたり、近所を散歩したりするのが習慣でした。

ここ数年は寄る年波に勝てず、Aさんは体調を崩しがちになり入退院を繰り返す時期もありました。パートナーはAさんよりも若く健康であるため、「もしも」の時を現実的に考えます。自分が築いてきたささやかな財産をパートナーに残したいと強く思うのでした。

相続について専門家に相談しようかと考えていた矢先、Aさんの病状が急激に悪化します。病院に運び込まれるも、回復することなく、Aさんは静かに息を引き取ってしまいました。パートナーに何かを託す言葉も、遺言書という形で意思を示す時間もなかったのです。

パートナーは深い悲しみに打ちひしがれるも、感傷に浸る間もなく現実的な問題が立ちはだかります。思い出の詰まった家や、Aさんが遺した預貯金の相続手続きが待っていたのです。この場合パートナーはAさんの財産を相続できるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

立ちはだかる同性パートナーの壁…自分の「願い」を実現するためには

ーパートナーが同性の場合の相続はどうなるのでしょうか

現在の日本の法律(民法)では、残念ながら同性のパートナーには法律上の配偶者(夫や妻)のような法定相続権が認められていません。法定相続人とは、法律で定められた遺産を相続する権利を持つ人のことで、配偶者、子、親、兄弟姉妹などが該当します。

また近年では、パートナーシップ条例を設け、同性カップルでも法律婚の夫婦と同様の行政サービスを受けられるケースも増えていますが、民法上の親族としては認められません。Aさんのケースでは、遺言書がありませんでした。この場合、法律の規定に従って相続されることになります。もしAさんに兄弟姉妹などの相続人がいれば、Aさんの遺産を相続することになります。

長年一緒に暮らし、事実上の夫婦と変わらない生活を送っていたとしても、法的には「他人」とみなされ、自動的に遺産を受け取る権利はないというのが現在の法律の扱いです。

ーパートナーが遺産を相続するにはどうすればよかったのでしょうか

Aさんが存命のうちに遺言書を作成しておくことが最も確実で一般的だと思われます。遺言書を作成し、「パートナーに全財産を遺贈する」「自宅不動産を遺贈する」といった内容を明記しておくといいでしょう。この場合、法定相続人よりも遺言の内容が優先されます。ただし特に「遺贈する」遺言の場合には、遺言執行者を定めておかなければならない点に注意が必要です。

遺言書以外であれば、Aさんとパートナーとの間であらかじめ死因贈与契約を締結する方法もあります。生前贈与や生命保険の受取人に指定するといった方法も有効です。また、パートナーとは年齢差があるようなので、養子縁組を行ってパートナーをAさんの養子にし、法定相続人とする方法もあるかと考えます。なお、生命保険の加入にあたっては、生命保険会社による引受が可能かどうかを調べておく必要があるでしょう。

いずれにせよ同性パートナー間の相続には、どうしても法律上の壁が存在します。ご自身の意思を確実に実現するために、生前に専門家に相談し対策しておくことをおすすめします。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

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