中堅企業で働くAさんは、結婚10年になる妻と小学生の子供と暮らしています。Aさんが住む一軒家の庭先には季節の花が咲き乱れ、通りかかる誰もが絵に描いたような幸せな家庭を想像することでしょう。
しかしAさんは妻からの言葉の暴力によって、10年間ずっと心が蝕まれていたのです。「本当に使えないわね」「あなたみたいな給料じゃ子供の将来が不安だわ」など妻からの人格否定は日常的に繰り返されていました。妻の機嫌が悪い日は、Aさんはまるで存在しないかのように徹底的に無視されるほどです。
家の中ではAさんを追い詰める妻も、一歩外に出れば別人のように外面の良さを発揮します。近所では気さくで明るい奥さん、子供の通う学校ではPTA活動にも尽力し、教育熱心な母親として評判でした。Aさんが知人に相談しても、「あんなに素敵な人がそんなことをするか?」と言われて理解されません。
Aさんにとって、マイホームは決して居心地のいい場所ではありませんでした。それでも子どものことを考えると、離婚は避けたいところです。何とか妻のモラルハラスメント(以下、モラハラ)を改善して、夫婦関係を改善する方法はないのでしょうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞きました。
弱気な姿勢を見せてしまうと…ますますエスカレートすることも
ー妻が夫に対してモラハラをしてしまう理由は何ですか
モラハラの根底には相手をコントロールしたい、自分の思い通りに動かしたいという支配欲があるのではないかと思います。最初はちょっとした命令で従わせようとしただけだったのが、エスカレートして人格否定のようになっていたのではないかと思います。
また、相手から強く愛されて結婚した場合、「これくらいのわがままは許してくれるだろう」と認識するケースもあります。当初は可愛らしいわがまま程度だったものが、夫が受け入れていくうちにエスカレートしてしまう場合も見受けられます。
ーAさんは妻のモラハラに対してどうすればいいのでしょうか
まずは「モラハラ」であると認識することです。Aさんの場合は相談する相手もおらず、妻の支配下に置かれてしまっていることもあり気づきにくい環境にあるのも事実です。それでも精神的に追い詰められる前に、何かしらの行動に出たほうがいいでしょう。
すぐできる行動の例でいうと、妻の言動をネットで調べるなどして、客観的に妻の言動がどのように見えるかを確認することです。
ー関係改善につなげることは可能でしょうか?
相手を変えようとするのは困難です。できるとしたらAさん自身が変わるしかありません。婚姻関係を続けたいのであれば、モラハラをまともに受け止めない技術を身につけるしかないでしょう。妻の言動を右から左へ受け流し、まともに取り合わないことが重要です。
また、妻に弱気な姿勢を見せてしまうとエスカレートしてしまう危険性があるため、なるべく笑顔を心がけ、相手の目をしっかり見て毅然な態度を示すことも重要です。子どもの前ではモラハラ発言をしないのなら、子どもとより多く一緒にいることも効果的です。
家の外に自分の居場所や落ち着ける時間・空間を確保することも重要です。もちろんカウンセラーなどの専門家を頼るのも良いでしょう。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。