その後、キャラクターを動物に置き換えるよう指示が入ったという。「こちらのラフイラストへのフィードバックのタイミングで、構図やキャラクター表現についての大きな修正が入りました」「人物を愛らしく描きたいとの意図のもとで、キャラクターを動物に置き換えるというディレクションがあり、それに従って描き直したものが最終的な装画となっています」
メールでの指示内容は「いろんな人がいて、みんな個性も才能もバラバラだけど必死に頑張ってる、愛おしい感じに仕上げられたら…です」だったと明かした。
さまざまな疾患に苦しむ人を動物に置き換えて描いたことについて、芦野さんは「読者の背景理解の後には皆がいきいき働ける未来があるというポジティブなテーマが前提の装画制作であり、編集者との具体的なやりとりに差別的な意識は感じていなかったため、『あり得ない』とは感じずに受け入れました」「しかし、ポジティブな印象とは別に、表象レベルで批判され得る可能性を孕んでいるという自覚も一方にありました。しかし、テーマや変更意図がポジティブなのだからと指示に従いました」と説明した。
「ここは多忙のためという言い訳になりますが、編集部とコミュニケーションを取る労を惜しんでしまったという実感もあります」「出版社や著者の表現や発信意図については、そもそも書籍にまつわる課題について深い理解のない私が言及することは出来ません(そこは無知や勉強不足を認めます)が、表象が示す危うさを感じつつも制作を進めたことは認めます」とイラストが差別につながりかねない危うさは感じていたとし、「以前に一緒に仕事をしたことがある方で信頼感もあったとは言え、この図案変節の時点で、全体の構造や影響を見通す力、制作チームでのコミュニケーションを厭わない態度が不足していた点を深く、そして最も反省しております」と反省の弁を述べた。芦野さんは「いただいたご意見は今後も真摯に受け止め、よりよい表現のあり方を模索し続けたいと考えています」と締めくくった。
同書は、ASD(自閉症スペクトラム)はナマケモノで「すぐにキレる!」「異臭を放ってもおかまいなし」などと表現し、ADHD(注意欠如・多動症)はサルで「机の上はまるでゴミ箱」「同僚の功績を平気で横取り」。愛着障害はウサギで「愛情不足のかまってさん」。トラウマ障害はヒツジで「人の手柄を横取りしてでも評価されたい」「問題が起きたらすべて他人のせい」などと偏見を助長する表現が並び、自律神経失調症や鬱病、更年期障害、適応障害、不安障害、パニック障害は「疾患」とまとめられ、「頑張りすぎて心が疲れたおやすみさん」とうなだれたシマウマに描かれた。
著者はカウンセラーの神田裕子さん。著書や神田さんのSNS、ホームページによると、神田さんは「発達障害&カサンドラ症候群、メンタルヘルス、恋愛から離婚育児までカウンセリング歴35年4万件以上のスーパーカウンセラー」で、発達障害の当事者やグレーゾーン、発達障害者のパートナーや家族、同僚のカサンドラ症候群を支援する団体を立ち上げている。発達障害とモラハラのカウンセリングや講演・研修も行っているという。著作に「パートナーが発達障害かも?と思ったときに読む本」(すばる舎)などがある。
神田さんは新刊「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」について、「あなたの周りにいる困ったさん対策!」「ぜひお役に立ててください」などとSNSに投稿している。
まいどなニュース編集部は三笠書房と神田裕子さんに対して、以下のような質問文を送った。
1 ASDの方をナマケモノ、ADHDの方をサルなどと動物で表現したことについて、差別を助長する可能性はありませんか。
2 職場にはびこる「困った人」として、ASD、ADHD、愛着障害、トラウマ障害、自律神経失調症、うつ、パニック障害などの精神疾患を伴う障害のある方々を列記していることについて、表現に問題はありませんか。「合理的配慮」を「尻拭い」と表現していることに問題はありませんか。
3 今回の書籍出版に関して、SNSなどで挙がっている批判の声をどう受け止めていますか。
4 出版内容、日程に変更の予定はありませんか。
回答期限を4月17日にしており、出版社および著者から回答があれば続報する。