コロナ禍を経て、多くの職場でWeb会議システムやクラウドサービスが業務に欠かせない存在となり、それらを活用したリモートワークも、すっかり勤務スタイルの一部として定着したように感じられます。しかし、先進的な働き方をいち早く取り入れてきた欧米諸国では、リモートワークを廃止し、オフィス勤務に戻ろうとする動きが活発になってきています。日本でも今後の対応が注目されていますが、もしも自分の職場が突然リモートワークを廃止することになったらどうするべきか、一度考えておくのも重要かもしれません。
リモートワークを条件に転職したのに…
Aさん(30代、関東在住、エンジニア)は、IT企業で働くエンジニアです。
新卒で入社した会社ではリモートワーク制度がなく、オフィスや客先で働いていましたが、大学時代の友人がフルリモートの会社で働いている話を聞き、その働き方に魅力を感じて転職を決意。
もともとIT業界は仕事柄リモートワークとの相性がよく、コロナ禍で取引先にも一気に普及したこともあり、フルリモートの転職先候補を見つけることはそう難しいことではありませんでした。
新しい職場では年に数回ほど、研修やクライアントとの顔合わせなどで出社することもありましたが、それくらいならむしろ良い気分転換になると感じたAさん。順調に仕事をこなしていましたが、ある日状況が一変します。
突然の「月に半分出社」ルール!?
リモートワークにすっかり馴染んだころ、全社員参加のオンライン会議が開かれました。何ごとだろうと参加してみると、人事総務部長から衝撃の発表が。
「来期より、就業場所が自宅と規定されている方も含めて、就業日の半数はオフィスもしくは指定のコワーキングスペースで勤務することを義務づけます」
そんな寝耳に水の発表に、Aさんをはじめ大半がリモートワークで勤務しているエンジニアたちはビックリ。
会議終了後にチャットツールで情報収集したところ、最近就任した社外取締役が「アメリカではRTO(Return to Office)運動がアタリマエになっている」「社員間の連携や業務知識の共有を増やし、この先の会社を発展させていくためには、出社義務付けが必要」と主張。それを古くから在籍している管理職たちが支持したことで、制度変更が検討されるに至ったようでした。
「アメリカではそうなっているって……今問題が起きているならともかく」
「業績も右肩上がりで推移しているし、インシデント対応も昔よりスムーズに進んでいるのになぜ?」
そんなチャットが飛び交うなか、Aさんはぼんやりと「また転職するか…。でも転職した先でまた同じようにオフィス出社が義務づけられてしまう可能性もあるな」と悩んでいました。
いちばん優秀なエンジニアが「じゃ、辞めます」
しかし、衝撃のオンライン会議の翌日。今度は社長から「昨日提案された『リモートワーク廃止案』を撤回します」というメッセージが届きました。
どうやら会議の直後、社内でいちばん優秀と評されるエンジニアが「リモートワークが続けられないなら、転職します」と社長に直談判したというのです。その中で「労働条件通知書に記載された就労場所を勝手に変えるのは問題じゃないんですか?」とも指摘。それが決定打となり、人材流出を恐れた社長が、急きょ方針転換したのでした。
若手人材や技術者不足が課題になる中、日本ではこれからどのような働き方の主流になっていくのか、まだまだ試行錯誤が続きそうです。
【参考】
▽独立行政法人労働政策研究・研修機構/アマゾンが「週5日出勤」を義務化へ―コロナ禍の在宅勤務から転換、25年1月より
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2024/11/usa_01.html?mm=2010