調査会社、いわゆる探偵事務所にはさまざまな個人や企業から「誰にも知られたくない秘密」の調査が持ち込まれる。探偵たちが扱う事件は、まさに時代や社会を映す鏡。そのファイルには、どんな事件が記録されているのか。神戸に本社がある近畿調査株式会社の武健一代表(69)が「守秘義務に反しない範囲なら」と、その一端を明かしてくれた。
最期の日々、その影で
使い込まれた携帯電話を手に、妻は卒倒しそうになった。
がんで5年近く闘病し、65歳で旅立った夫の葬儀を終えたばかり。遺品から出てきたのは、闘病中に機種変更する前の携帯だった。
誠実だった夫を、今後もそばに感じていたい。そんな気持ちがわいてきた。「思い出の写真があるかも」。誕生日、結婚記念日…。思い当たる数字を入力していくと、数回目でパスワードが解除できた。
写真のフォルダーを開く。目に飛び込んできたのは、予想もしない光景の数々だった。被写体は見覚えのない40代くらいの女性。夫と並んだ自撮り写真、相手のマンションらしき部屋で撮った写真、そして裸のみだらな写真まであった。
震える手でメッセージのやりとりも確認した。「たこ焼きを作ってほしい。妻がいやがるから自宅では粉もん焼かれへん」。女性と会い、家に行っていた痕跡がいくつも見つかった。
送信日や撮影日を見て、妻は絶句する。がんの在宅療養を決め、退院した後のことだった。「最期の日々は家族と過ごしたい」と言っていたはずだった。
仕事、出張のウソ
まじめに働き、家族を大切にする、優しい夫と信じてきた。不倫を疑ったこともなかった。
裏切りは闘病に入る前から始まっていた。「日曜出勤」「徹夜で仕事」と言っていた夫。どれも浮気の日と一致した。「出張」の日には、女性と旅行へ行っていた。抗がん剤の治療中も、弱った体で女性の家に行っていた。
「退院後に私と体の触れあいはなかったけど、気持ちでつながっていると思っていた」。武代表のもとを訪れた妻は、怒りをぶちまけた。「別の女に夢中になり、安らいでいた。残された時間を過ごすのに、家族ではなく不倫相手を選んだことが許せない」
死後のため、もう離婚もできない。不倫相手に慰謝料を請求するハードルも高い。それでも「知りたい」と調査を依頼。探偵が調べると、車のドライブレコーダーには、女性を駅まで迎えに行ってマンションへ向かう道中や旅行の映像、車内の親密な会話も記録されていた。
携帯のデータをさかのぼると、ほかに2人の女性とも別の時期に不倫していたらしいことが分かった。
機種変更し、最後に使っていたスマートフォンも手元にあった。プロに発注すれば、ロックを解除できる可能性の高い機種。妻は「中身を見たい」と望んだが、息子が「傷つくだけ。やめたほうがいい」と諭して持ち帰った。
SNS「故人情報」もきっかけに
武代表によると、携帯やドライブレコーダーだけでなく、交流サイト(SNS)のアカウントからも生前の不倫が明らかになるケースが増えているという。
「問い詰めることも関係修復もできず、生前の浮気よりパートナーのショックは大きい。昔ならバレずに天国へ行けたんですけどね」。武代表は語った。
※当事者の特定を防ぐため、一部脚色しています
(まいどなニュース・神戸新聞/山岸 洋介)