師走の寒さが身に染みる朝、会社員のAさんは目覚めとともに体の異変を感じました。頭がズキズキと痛み、体中が重たく感じられます。体温計で測ってみると、38.5度の熱がありました。
しかし、今日は重要な会議が予定されています。Aさんは熱があるにもかかわらず、出社しようとしますが、その様子を見たAさんの妻は心配そうな表情で「大丈夫? この前もらった薬があるわ。これを飲んでみる?」と自分が風邪をひいた時に処方された薬の余りを差し出します。
Aさんは一瞬戸惑いましたが、少しでも症状を抑えたい一心で薬を受け取りました。薬の効果もあり、お昼前には少し体調が回復したAさんは、午後から出社して会議に参加します。
無事に会議を終えたAさんは、念のため帰宅途中に病院に寄ると医師から「他人の薬を飲むのは大変危険です」と 厳重に注意を受けてしまうのでした。反省したAさんはネットで処方薬について調べてみると、他人に処方薬を渡す行為は場合によっては罪になることもあると知りました。では実際に、処方薬を渡す行為はどのような罪になる可能性があるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに伺いました。
ー処方薬を譲渡すると罪になる場合があるのでしょうか
医師が処方した薬を他人に譲渡した場合、2つの法律に抵触する恐れがあります。
まずは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律です。この法律は「薬機法」と呼ばれるもので、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科せられることがあります。
ただし、業としての医薬品の販売・授与・授与目的の貯蔵・陳列について定められているものなので、反復継続しておこなっていなければ抵触しません。Aさんのケースのように家族間で家にあった薬を渡しても、これに触れることはありません。
また、薬の種類が抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬などであった場合、麻薬及び向精神薬取締法に抵触します。この場合は、5年以下の懲役、又は情状により5年以下の懲役及び100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
こちらは「業として」に限られないため、他人に処方薬を譲渡すると違反になってしまいます。とはいえ、法律的にという前に、薬には危険性が潜んでいることを理解しておいた方がいいでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。