もらい事故に遭った男性の体験談が、X上で注目を集めている。愛車をパーキングに止めて戻ると、車の右後方が大破していた。加害者は車で衝突してしまったといい、過失は10:0で相手側。修理費の見積もりは約530万円だった。しかし、相手の保険会社に提示されたのは、事故当時の時価280万円。男性は悲痛な思いを語る。「もらい事故なのに、全額出してもらえないなんて納得できない」
事故当時の車両の時価
投稿したのは、X名・mertesさん(@HOTARUVI)。東京都在住で、2022年に新車のテスラ「モデル3」を購入した。もらい事故に遭ったのは、今年11月上旬。右後方のボディが大きく凹み、被害はライトや後部座席周辺まで及んでいた。「目を疑いました…。修理が難しいと思うような状態でした」と男性は振り返る。
加入する保険会社に電話すると、「今回の事故は過失が0なので、こちらは介入しません。自身の車両保険を使うこともできますが、3等級ダウンしますので、ご検討ください」と言われた。過失がないもらい事故で車両保険を使っても等級が下がらない「無過失事故特約」は入っていなかったという。
その後、相手の保険会社とやり取りし、提示されたのは、事故当時のテスラの時価230万円。実際の修理費の530万円には及ばない。調べると、過去の裁判例でも「事故当時の車両の時価」しか支払われないようだった。「車のローンも完済できていません。何もしていないのに、顔も知らなかった第三者の不注意で傷付けられて、愛着のある車がなくなって、借金を抱えることになって。なぜ泣き寝入りなのでしょうか」と嘆く。
判例では「特段の事情がない限り認められない」
Authense (オーセンス)法律事務所の川崎賢介弁護士によると、物損事故で過失が10:0で相手にある場合、補償内容などを定めた法律はないという。「ただ、過去の裁判例で『公平な見知から、修理費が事故当時の時価を超える場合には、その賠償額は特段の事情のない限り、その時価を限度とするものと解される』との見解が続いています」と説明する。
今回のように、修理可能だが修理代が事故当時の時価を超えるケースを「経済的全損」と呼ぶという。中古車や走行距離が長い車両などは、経済的全損になるケースが多いそうだ。時価額は、有限会社オートガイド社が発行する「自動車価格月報(レッドブック)」を参考に決められるという。
ではなぜ、被害に遭った人が損をする仕組みなのだろう。それには、「公平な知見」という考え方がポイントだという。「被害者と言っても、経済的に合理的な範囲で保護されるという発想に基づいて、被害者と加害者との公平を図った考え方です。なので、被害者は、壊れた車両と同種同等の車両を買い替えればよくて、加害者がその購入額を超える修理費まで負担する必要はない、と考えられています」と話す。
今回の被害者と同様のケースに不安を持った人が、裁判を行うこともある。しかし、事業に必要な内装をする必要があるなどの特殊な事情がない限り認められないという。「車両に愛着を持っているだけでは、『認めません』との判例もあります。今の裁判ではそういう通例になっています」