家賃滞納、電気と水道も止められ…倒産寸前だった老舗和菓子店 売り上げ4倍へ導いた逆転劇とは?

平藤 清刀 平藤 清刀

大阪府泉大津市にある和菓子司「ぽんぽんや」は、今年で創業91年を迎える老舗の和菓子店。餅を大豆餡(あん)でくるんだ伝統菓子「くるみ餅」が目玉商品だ。「くるみ餅」は、泉大津市がある大阪府南部の「泉州(せんしゅう)」と呼ばれる地域に伝わる伝統菓子で、大豆でつくった餡で小餅をくるんであるから「くるみ餅」と呼ばれる。特に泉大津では冠婚葬祭、だんじり祭り、年末年始、お盆など親戚、縁者、友人が集まるところには「くるみ餅」が欠かせないといわれ、戦前は家庭でも作られていた。

だが前店主が経営していた4年前、「ぽんぽんや」は倒産の危機に瀕していた。そんな店の経営を引き継いで、売り上げを4倍に伸ばして危機を救った株式会社アレスグーテの代表取締役、中村陽子さんにお話を伺った。

商品を作れないから材料を販売したら大当たり

「ぽんぽんや」の経営を引き継ぐ前、中村さんは大手都市銀行での勤務を経て、ホテルの支配人を務めた経歴をもっている。経営のノウハウは、ホテルの支配人時代に身についたそうだ。 その後、日本茶インストラクターの資格を取得して日本茶を普及させる活動に取り組み、並行してアレスグーテを設立しコンサルタント業も行っていた。

アレスグーテを設立して間もない2020年、ある異業種交流会に参加したときのこと。隣の席に座った人物と言葉を交わすうち「幼なじみが餅を売る店をやっているけど全然流行っていないから、日本茶とコラボできないだろうか」と相談を持ち掛けられた。

「日本茶と和菓子のコラボは面白いかも」

その店が「ぽんぽんや」だった。初めて訪れたとき、前店主から「売り上げが落ち込んでいるため家賃を滞納し、電気も止められている」と聞いた。壁はすすけて黒ずむなどして清潔感はなく、店頭に陳列されている商品もわずかだった。

「お餅やみたらし団子は少しだけ出ていましたが、他の商品はほぼ出ていませんでした」

前店主は「店を畳むつもり」だという。そこへたまたま客として訪れていた高齢の女性が、話を聞いていたのか「お兄ちゃん、この店は潰さんといて。私らの小さいときからある店やから、絶対に潰さんといてや」と拝みながら懇願された。

「そこまで慕われているお店なら、なんとかできないかと考えたんです」

中村さんは、厨房に残っていたわらび粉・きな粉・砂糖を小分けにして袋に詰め、家庭でわらび餅がつくれるセットを考案。それを商品化してFacebookで告知し、販売を始めた。電気は使えず、ガスも止まるかどうかという状態で加熱調理ができない中でたどりついた苦肉の策だった。

「10分混ぜれば、わらび餅ができます」と手軽さを謳い、注文が入ったらレターパックで発送する。これが大当たりした。ときはコロナ禍で、世間ではホットケーキミックスが軒並み品切れになったと話題になっている頃だった。

「外へ出られないから、おうちでお菓子が作れるというので需要があったようです」

家庭でわらび餅が作れるセットは、最盛期には1日に300セットも注文が入る、大ヒット商品となった。

仕入れ代金の支払いも滞っていた。店の信用をすっかり失っていたため、仕入れは現金との引き換えだった。それでも家庭でわらび餅が作れるセットが順調に売れたため、資金繰りは次第に好転していった。

2021年には経営権の譲渡を受け、現在はアレスグーテが「ぽんぽんや」を運営している。

91年の歴史と味を守りながら地域社会との結びつきを大切に

前店主はその後しばらくして店を退職し、「くるみ餅」のつくり方は中村さんが引き継いでいる。

「くるみ餅は創業以来91年の味と歴史を壊さないように、味や形を引き継ぐのが大変でした」

レシピが明文化されていなかったため、中村さんをはじめスタッフが総出で前店主の動きを観察したり、以前アルバイトで働いたことがある前店主の甥がサポートしてくれたりして、およそ半年をかけて「くるみ餅」のつくり方を習得したという。今では製造法をレシピに整理して、作り手が代わっても一定レベルの品質を保てるようにしたそうだ。

経営を引き継いだ後は厨房の設備を一新し、黒くすすけていた壁紙も貼り替えた。店のたたずまいも明るくなり、清潔感が溢れる、おしゃれな和菓子屋に生まれ変わった。

今は主にInstagramでの情報発信に注力し、商品の紹介やキャンペーンに活用している。その結果、若いお客さんも来店するようになったという。

「以前は60歳以上のお客様が多かったのですが、最近は若い女性の方も増えています。毎日のように『インスタを見てるよ』とおっしゃるお客様が来られますし、これからもお客様とのコミュニケーションツールであるInstagramを発信し続けたいと思います」

偶然の出会いから、倒産しかけている和菓子屋の立て直しを手掛けることになり、独自の発想と工夫で経営をV字回復させた中村さん。

「はじめは自転車操業で大変でしたが、不思議なことに、この仕事を辞めたいとは思わなかったんです。心から、この地域の役に立てたら嬉しいと考えています」

中村さんが初めて「ぽんぽんや」を訪れた頃から比べて、現在の年間売り上げは4倍になり、さらに伸び続けている。地域のイベントにも積極的に参加したり、子ども食堂へかしわ餅やどら焼きなどを寄付したりして、地域社会への貢献や結びつきの強化にも努めているという。

2023年には泉大津市の青年会議所と協力して、地元の新しい名物として「アンデクルンデ」を開発した。

最後に、経営者としての課題を尋ねた。

「短期的な利益だけでなく長期的な事業の成長を見据えた意思決定も求められるので、適切、迅速な意思決定ができるよう日頃からアンテナを張りめぐらせています」

今後は、消費期限がわずか1日だという「くるみ餅」を全国へ届けられるように、冷凍で販売する準備を進めているそうだ。また、その「くるみ餅」を地元の人がいつでも買えるように、冷凍販売できる自動販売機も発注した。こちらは11月から販売できる予定だ。

▽和菓子司ぽんぽんや

https://ponponya.jp/

Instagram

https://www.instagram.com/ponponya.wagashi/

X(旧Twitter)

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