都内で町工場を営んでいるAさんは、月末になると従業員の給料を振り込むために近所の銀行を利用しています。いつものようにAさんが銀行に行くと、いつもならそれほど混んでいないはずが、その日に限って長蛇の列ができていたのです。
何があったのかと思いAさんが列の先を見てみると、設置されている2台のATMのうち1台を占拠している女性がいました。その女性は慣れない手つきでATMを操作しているようで、なかなか操作を終えることができません。
2台のうち1台がこの様子なので、ほかの利用者は残りの1台を使用せざるを得ません。なかなか列が進まない中、Aさんも苛立ちを感じるようになっていきます。30分経過してもその女性は操作を終えようとしません。いいかげんAさんも銀行員を呼びに行こうとも思いましたが、列から離れるわけにもいきません。こんなに長い時間1人でATMを使い続けるのは罪にはならないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ー長時間ATMを使っていても罪にはなりませんか
正当な理由でATMを使用しているのであれば、罪にはなりません。ATMの操作がおぼつかず、ミスをしてやり直すことになるなどして時間がかかってしまうのは仕方ないでしょう。混んでいる銀行であれば、窓口で長時間待たされることもあるわけですから。
長時間ATMを占拠されていて苛立ってしまう気持ちも分かりますが、その人を悪人のように扱うのは感心しません。もしかしたらAさんも長時間ATMを使う人になる可能性があるわけですから。
ー悪意を持って占拠していれば罪になるのでしょうか
もしその人が悪意を持ってATMを占拠していれば、偽計業務妨害罪に問われる可能性があります。ただその場合でも銀行に対しての妨害であって、ほかの利用者に対する妨害とみなされるわけではありません。悪意をもってATMを占拠している場合であっても、直接その人を注意するのではなく、銀行員に相談した方がいいでしょう。
過去の判例でいうと、最高裁判所で2007年(平成19年)7月2日判決の裁判にて、利用客の暗証番号を盗撮しようとして隣のATMを占拠し続けた人が偽計業務妨害罪と判断されたケースもあります。
ーATMを長時間使い続けている人がいてもどうしようもないのでしょうか
正しく使用し続けている限りどうしようもありません。どうしても振込処理に時間を掛けたくないのであれば、これを機にネットバンクの利用を進めるなどして、ATMを使わなくていい環境を検討した方がいいでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。