夏が終わり、多くの高校三年生が部活などを引退して進路に向けて本格的に動き出す季節になりました。大学に進学する人や就職する人など、それぞれが自分の将来を考える時期です。ただ子ども自身が考える将来と、親が考える子どもの将来とにはギャップがあることも少なくありません。
高校三年生の息子がいる専業主婦のAさんは、息子の進路が気になって普段の家事が手につかなくなるほどです。Aさん自身は高卒で就職したため、自分は味わうことのできなかったキャンパスライフを息子には満喫して欲しいと考えていました。もちろん大学生活で学べる内容は社会に出てからも活用できるものが多いだろうと考えており、息子には進学することを希望しています。
一方、Aさんの息子は高校を卒業したら大学には進学せず、働きに出ようと考えていました。というのもAさんの夫も高卒で働きだし、今では小さいながらも会社を経営しています。父親の姿を見ていた息子は自分もいずれは会社を経営すると意気込んでおり、Aさんの話に耳を貸しません。
しかし会社を経営する大変さを間近で見てきたAさんとしては、会社経営に関しても反対でした。生涯賃金を考えても高卒よりも大卒の方が有利だと思うのですが、実際はどうなのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの高田充史さんに話を聞きました。
ー高卒よりも大卒のほうが生涯賃金が多いというのは本当でしょうか
はい本当です。独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表している「ユースフル労働統計2023 ―労働統計加工指標集―」の「21 生涯賃金など生涯に関する指標」に、男女別の生涯賃金が掲載されています。この資料によると2022年の退職金まで含む生涯賃金は高卒の場合、男性:2億6020万円、女性:1億8910万円だったのに対し、大卒の場合は男性:3億2020万円、女性:2億5370万円となっており、いずれも大卒の方が6000万円以上多くなっていました。
ーただ大学に通うとその分、学費が発生しますよね
確かに大学に通うと学費が発生しますが、生涯賃金の差6000万円を埋めるほどではありません。最も学費が高くなる私立大学の理系学部でも、4年間にかかる平均の学費は約550万円ほどです。
ーもしも高卒で働く場合、より生涯賃金を増やすにはどうしたらいいでしょうか
まず高卒にあって大卒にないメリットとしては、いち早く社会に出ているという点です。例えば資格や専門的な技術が問われる仕事であれば、高卒であっても勝負することはできます。なかでも建築業界や情報通信業界は、高卒でも初任給が高めなのでねらい目です。
働き出してから能力を磨き周囲から評価されるようになれば、その実績をもとに条件の良い転職も可能です。転職市場では学歴よりも資格や実績が評価されることもあり、年収が大きく上がることもありえます。
そうなれば大卒の会社員を上回る年収を得ることも不可能ではありません。高卒で働くにしても大卒で働くにしても、生涯賃金を増やすためには学びや努力を続けて実績を積み上げていくことが重要です。
◆高田 充史(たかだ あつし)株式会社Erwin 代表取締役。独立系FP法人として「マイホーム購入の相談窓口」と「マネープランの相談窓口」を運営。住宅購入の資金契約や住宅ローン比較診断、ライフプラン作成など主に個人の資金相談を専門として、対面とオンラインで過去1000件以上の相談件数を積み重ねている。