滋賀県立図書館(大津市)が、国内で刊行されている児童書の「全点購入」を始めて35年以上になる。かつては全国の都道府県立図書館で唯一の取り組みであり、県の財政難に伴って図書費が減る中でも事業を継続してきた。豊富な資料がそろい、一般向けの貸し出しだけでなく、地域の図書館関係者や読書ボランティアが選書する際の下支えにもなっている。
同館では、児童書をおおまかに「絵本」「読み物」「知識の本」に分け、対象は中学生まで。全点購入は1988年からで、市町の図書館職員や子ども文庫関係者からの要望がきっかけという。県立図書館の脇坂さおり児童資料係長は「滋賀には本屋が少なく、大きなリュックで京都の大型書店まで絵本を探しに行くという切実な事情があったようです」と説明する。
絵本は一般書と比べ、タイトルや表紙から内容を判断しにくく、子どもや保護者らに勧める機会も多いため、実物を確かめることが重要になる。児童書担当の中嶋智子主査は「現在はネットにある程度の情報が載っていて新刊リストも届くが、実際に手に取るのとは全然違う。個人的にも『あ、こんな本が出たんだ』という驚きがあって楽しい」と笑みを浮かべる。
年間に出版される児童書は4千点以上。同館では児童室の約4万冊を含めて約26万冊の蔵書を誇り、都道府県立図書館59館で2番目に多い(「日本の図書館2022」電子版)。来館者の利用だけでなく、自館で所蔵がない市町図書館への「協力貸出」もしている。
さらに、選書や研究のための「児童図書研究室」も備える。直近3年分の絵本などが並び、その多くは個人に対して貸し出していないが、申し込めば大人なら誰でも自由に閲覧できる。
「話題に上った本などを確認するのに研究室はとても助かる」と語るのは、県子ども文庫連絡会の本咲操代表。全点購入の意義についても、「出版社が増えていて小さくても良い本を出している一方、目利きの図書館職員が選書しても漏れが発生しやすい。その点、身近な県立図書館が必ず所蔵しているのは心強い」と強調する。
近年、児童書を積極的に購入する県立図書館が増えているが、以前は滋賀のみが全点購入していた。天皇、皇后両陛下の長女愛子さまが幼い頃に気に入っていたとして、絵本「うしろにいるのだあれ」が話題になった時には、既に入手困難だったために他県の図書館の求めに応じて貸し出したこともあったという。網羅的に収集しているからこそ、例えば性教育や環境問題に関する児童書が増え始めた時期など、出版の傾向や児童文化の変遷もつかみやすい。
ただ、これまで逆風にも見舞われてきた。2008年度には県の財政難で図書費が3割ほどカット。休館日を増やすなど経費削減に努め、児童書も1タイトルにつき複数買っていたのを原則1冊に減らした。
後に絵本は複数購入に戻ったが、図書費は大きく減ったまま。厳しい状況が続く中、県はふるさと納税の寄付金の使い道として「児童図書の充実」を選べるようにした。傷んだ絵本の買い直しを合わせ、過去2年間で約3千冊購入できたという。
脇坂係長は「すべての児童書が子どもの文化であり、市町の図書館をはじめ、子どもの読書に関わる人たちを資料面で支えるのは県立の大事な役割。今後も全点購入を続け、より多くの人に利用してもらえるようPRにも努めたい」と話す。