厚生労働省から2024年5月31日に「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」が公布されました。この案内には、3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように、事業主が環境を整える努力義務が明記されています。また実際に法改正が施行されるのは2025年7月1日のため、今後企業は子育てをしながら自宅で働ける環境を急いで整えていくことでしょう。
一方で子育てをしながらテレワークをする場合、労働時間の管理がどうなるのかという点に課題があります。1歳の子どもを持つCさんは、テレワークを利用して自宅で仕事をしていました。普段は9時から17時までを自宅で働き、その合間で子どもの面倒を見ています。そんなある日、CさんがWeb会議に参加していたとき、大人しく寝ていた子どもがぐずりだして、隣の部屋から大きな泣き声が聞こえてきたのです。
会議に出ているメンバーに断りを入れた後で子どもの様子を見に行き、しばらくして子どもを抱きかかえながら会議に戻りました。子どもをあやしながら会議に参加したCさんは予定通りにプレゼンも終えたものの、会議の終盤に部長から「子どもをあやしながらの会議は、業務時間としては認められない」と言われてしまいます。
確かに子どもの様子を見るために会議の途中で離席したけれど、プレゼンを予定通りに実施しています。この状況でも業務時間として認められないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみました。
ー子どもをあやしながら仕事をすると労働時間にカウントされないのでしょうか
カウントされない可能性が非常に高いです。従業員は会社と労働契約を結んで働いており、このなかで職務専念義務に同意しています。職務専念義務というのは「仕事中は業務に集中しなければならない」というものです。仮に、仕事の成果が抜群であったとしても、契約している時間内は仕事に集中しなければなりません。子どもをあやしていたとしたら、仕事に集中していないとみなされる可能性があります。
ただ、もしCさんの契約が労働契約ではなく業務委託契約だった場合は、成果にもとづいて契約しているため、子どもをあやしながら仕事をしていても問題ありません。
ーそもそも会社はテレワーク中の労働時間をどのように管理するのでしょうか
現実的に会社内にいるのと同じような管理をするのは困難です。パソコンのカメラで常に撮影したり、キーボードの動作を記録する手法をとっている企業もありますが、労働者が監視されていると感じて、パフォーマンスの低下につながるデメリットも存在します。
子育て支援の意味合いでテレワークに力を入れようとしている流れがありますが、あくまでも仕事と子育ては分けて考えなければならないのが現状です。テレワークという仕組みだけでなく、職務専念義務の範囲についても、議論が必要ではないかと考えています。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。